• 2021/08/13

    谷口 浩二

産学連携教育が地球を守り、環境産業を成長させる

近年、企業経営において『環境』を考慮することは、当然のことになりつつあります。『CSV経営』や『SDGs』というキーワードがさかんに飛び交うなど、『環境』をビジネスに取り込む動きが加速しています。

今回は、環境問題の現状や環境産業が世界的急成長を見せている動き、そして環境産業を加速させる人材育成について考えてみましょう。

現在の環境問題の3つのトピック

地球上には多くの環境問題が存在しますが、『地球大気の温暖化』と『資源の枯渇進行』、そして『生態系破壊の進行』という3つは、特に大きなトピックとして存在しています。

まず、『地球大気の温暖化』についてですが「温暖化は問題ない」という論調もありますが、カナダで摂氏50度に迫る熱暑が発生したり、世界中での山火事の頻発、ゲリラ豪雨の増加など、気候変動が大きくなっているのは確かであり、その変動が経営的な被害をもたらすのも事実です。そう考えると、経営的視点では問題ある存在だと言えます。

次に『資源の枯渇進行』ですが、代表的な石油は何十年も前から枯渇すると言われながら、現時点では枯渇どころか採掘量を増やしている事実があります。しかし、現在枯渇が心配される資源は石油ではなくレアメタルです。EVなど次世代産業でレアメタルが大量消費され、枯渇や価格高騰が大きな問題になりつつあり、解決は喫緊の課題と言えるでしょう。

そして『生態系破壊の進行』については、人間による乱獲や環境悪化は徐々に改善されつつあり、以前に比べれば地球上の生態系は守られつつあるように見えます。しかしながら、絶滅危機にある動物を指定するレッドリストは存在しており、生態系破壊は止まっていないと言えるでしょう。

いろいろな現実や焦点は変化しているものの、環境問題は着実に進行しており、企業はこの問題に向き合う必要があるのは事実だと言えます。ただ、最近の学生たちの多くは、こうした社会的課題を身近な存在として認識しており、ビジネス的視点よりも地球温暖化を防ぐために自分たちができることをやりたい、という意識を持っていると感じるので、将来の見通しは決して暗くないと考えています。

環境産業の専門的知識を備えた人材育成が急務

ここまで説明してきた環境問題が存在することで、その問題解消をビジネスとする『環境産業』が世界で急成長しています。日本も環境産業の先頭を走っているわけではありませんが、その列に加わっています。

事実、日本国内の動きとしては、日本の代表的な企業や業種別全国団体、地方経済団体が形成する経団連が、2020年に発表した『新成長戦略』を見れば、その取り組みの本気度がわかります。「DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた新たな成長」や「働き方の変革」、「地方創生」、「国際経済秩序の再構築」、「グリーン成長の実現」の5本柱で構成されており、中でも「グリーン成長の実現」はメディアでも大きく取り上げられました。

また世界的に見ても、先進国の国債利回りが低下する中、行き場のない資金が環境投資に押し寄せ、3,000兆円を超える巨額マネーが流入する事態となっています。日本国内でも、2050年までのカーボンニュートラル実現をめざして、政府予算からも毎年多額の予算が付けられていくことでしょう。こうした莫大な政府資金や行き場のない投資資金を狙って、多くの企業が環境産業に対する投資を推進しようとしています。

ただ、ここで大きな問題に突き当たります。こうした環境投資や環境産業について十分な知識と経験を備えた『環境人材』が圧倒的に不足しているのです。そのため、環境産業の取り組みを推進する専門的な知識を備えた人材を育成する仕組みづくりが急務とされています。

環境人材は産学連携教育で育成すべき

環境産業を推進する上で必要な人材をどう育成していくかが、次世代の日本の産業、さらには地球環境を左右すると言えます。自社の事業内容と環境問題解決への取り組みを融合して自社ビジネスとして成立させ、SDGsやCSR経営をはじめとした環境経営を成立させる人材育成は必須と言えるでしょう。

そうした中で今注目されているのが、『産学連携教育』による環境人材育成です。これは大学と企業が連携して、大学生の間にSDGsやCSV経営の現場に触れたり、環境教育、環境産業への理解と専門的知識を備えることで、将来的な環境人材を育成しようという取り組みです。企業は実践の場を提供し、大学は理論を学ぶ機会を提供する。双方が連携しながら取り組む『産学連携教育』が、未来の日本企業の成長のカギを握っているのかもしれません。

ただ、ここで大事なのは「環境人材はどんな素養が必要なのか」という点です。もちろん環境産業に必要な専門的知識を求められるのは当然です。ただ、私はそれに加えて『プロデュース力』と『ディレクション力』が必要だと考えています。

『プロデュース力』は自社の事業内容と環境や社会的課題を結びつけ、ビジネスとして成立させながら社会的課題を解決する道筋を創造する力です。そこには企画力や発想力が求められるでしょう。『ディレクション力』はプロジェクトを着実に前進させて実現に導くため、調整したり、交渉したり、進行管理をする力です。

将来、環境人材として社会で活躍することをめざすのであれば、こうした能力を身につけるべく、早い段階から社会と関わりを持ちながら学ぶことをおすすめします。今後、どんな業界にも環境人材は必要になります。働きたい業界のSDGsやCSRに対する取り組みを学び、同時にCSR検定といった制度を利用しながら関連する基礎知識を学ぶことをおすすめします。

入試情報

資料請求