• 2021/07/04

    本田 一成

ムコジョの先生はクミジョを知る

現在、日本は国を挙げて女性が活躍する社会をめざしています。国会議員はもとより企業役員、管理職にも多くの女性が進出し、メディアでも取り上げられています。私は仕事柄、労働組合の役員や職員、研究者などと接する機会が多いのですが、2000年以降、労働組合も女性の組合役員が目に見えて増えています。しかし、労働組合の女性役員は大きな不満を抱えているとも感じています。今回は労働組合で活動する女性『クミジョ』について考えてみましょう。

 

女性役員がいる労働組合ですら男性的思考である理由

労働組合は女性役員を増やすのに躍起になっています。たとえば組合役員のうち3割は女性とか、労働組合の代表と言える執行役員に必ず1名は女性役員を含めるなど、具体的な数値目標を掲げる労働組合も多く、着実に女性役員の割合は増えています。これは喜ばしいことなのですが、そうした労働組合で活動するクミジョたちの間には不満が渦巻いており、それを男性役員が理解できていない事態が起きています。

たとえば、非正規社員やパートタイマー、産休や出産で退職せざるを得ない女性社員の存在まで頭が回らず、育児休業の存在があれば十分と考え、その中身を議論・検証するところまで考えが至らないのです。

最も問題なのが、こうした男性役員たちの多くに、女性が働くことに対するアンコンシャスバイアスが働いている点です。これは、労働組合の男性役員は妻が専業主婦というケースが多く、女性役員が仕事を終えて組合事務所に出て組合の仕事をする大変さを理解できず、女性役員に「旦那さん大丈夫?」などと声を掛けてしまい、女性役員たちの不満を増大させているのです。

そうした男性主体から変わらない労働組合の現状があるにもかかわらず、女性役員は着実に増えています。その理由は「誰かがやらないといけないと思ったから」はまだ良い方で、「断れない先輩からお願いされた」や「2年間の持ち回りだから我慢する」といった消極的なものが、実は本当に多いのです。

加えて、春闘の時期には徹夜もあり得るほど、夜が遅い組合活動に参加できる女性は限られているのが現実です。たいていの女性役員は独身か子どもがいない既婚者で、女性といえども出産や育児にまつわる労働条件を向上させるという部分は抜け落ちがちになります。ただ、彼女たち自身もそのジレンマは自覚していて「自分たちは女性代表ではないのかもしれない」と単に男性組合員の代わりでしかないことに薄々気づいているのです。非正規社員を含めて女性が多い会社も、労働組合の思考が男性化するのは、こんなところに理由があるのかもしれません。

女性役員の増加より男性役員の意識改革が必要

男性役員は女性役員が増えていることに満足し、女性役員はどんどん冷めていく。日本のジェンダーギャップ指数が先進国の中でも特に下位である以上、無理に女性役員比率をアップさせるだけでは女性が疲弊していくだけです。女性役員の数や比率にこだわらず、男性役員がこれまで以上に働く女性について真剣に学ぶことが必要なのです。女性役員も自らがマイノリティであることを男性役員に認識させ、マイノリティの意見を反映させる活動をすべきだと考えます。その方が、クミジョの不満は解消されると考えます。

また、本当に女性が活躍できる社会を労働組合の立場から推進するなら、女性役員を増やすのではなく、男性が変わるための方策を講じるべきでしょう。男女が一緒に労働組合で活動するためには、男性が女性のことを理解するための研修を受けるのが正解だと思います。将来、クミジョだけが独立して活動する場があっても良い。クミジョの名簿を作り、クミジョ独自のオフィスを置く。労働組合が働く女性のことを真剣に考えた動きをするには、そのぐらいのことが必要です。女性組合員の数だけを考えれば、クミジョ独自の活動を支援する国会議員を送り出すことも不可能ではないのですから。

クミジョが会社経営をリードする時代へ

武庫川女子大学をはじめとする女子学生の中にも、労働組合が存在する会社や団体に就職する人がいるでしょう。ここまで労働組合は女性にとって良くない場所であるかのように書いてきましたが、もし就職先に労働組合があればクミジョを引き受けることをおすすめします。

なぜなら労働組合の存在が、労働者を守る役割を担っていると同時に、労働組合は会社を教育して動かせる立場にあるからです。企業を健全化させるための最も大きな力を持つのは、株主よりむしろ労働組合です。事実、労働協約や春闘を見れば、社長と真正面から対峙して対等の立場で労働条件や会社の計画について労使コミュニケーションをとり、労働組合が経営方針に発言したりすることも少なくないのです。

たとえば大学で経営戦略やマーケティングを学び、就職先の企業で自分が立案した経営戦略やマーケティング戦略で会社を動かすのは相当先ですが、経営者を『教育する対象』と考えれば、組合役員は会社経営に直接的に関与できるポジションだと言え、その役割を30歳代前半で担うことも可能なのです。日本は労働者が社長になれる国であることを忘れるべきではありません。

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