• 2021/08/30

    岸本 義之

リーダーシップは「身につける」ことができる

就職活動時はもちろんのこと、仕事上で必ず求められるのが『リーダーシップ』。企業や組織を率いて成功するために必須の資質ですが、日本では「リーダーシップは生まれ持ったもの」という誤った認識が広がっているようです。ここではリーダーシップの資質が育まれる機会などについて考えてみたいと思います。

リーダーシップは「生まれつき」か?!

日本では、リーダーシップのある人は、幼少期からその素養を持っていると考えられがちです。

例えば、マンガ『ドラえもん』の登場人物であるジャイアンは、なぜ周囲の子どもたちを従わせることができているのでしょうか。体格もよく、力が強いのですが、それだけでリーダーシップを発揮できるとは限りません。おそらく、実際に周囲の子どもたちを力づくで無理矢理従わせることに何度も成功したため、それが自信となって言動に表れているのでしょう。もし、リーダーシップにこうした幼少期の経験が必須だとなれば、企業のリーダーはジャイアン型の人物だらけになってしまいます。それでは組織が持ちません。

リーダーシップの形成には、その組織や職務における『早期の成功体験』という要素が重要になります。この視点から見ると「幼少期にガキ大将だった」、「部活でキャプテンだった」といった経験は、確かに『早期の成功体験』ではあるものの、ビジネスでの成功とは無縁です。もし、こうしたビジネスとは無関係の成功体験で培ったリーダーシップをビジネスの現場で発揮しようとすると、組織を間違った方向に導く危険性があります。「気合いが足りない!」「とにかくもっと頑張れ!」といった言葉を連発するだけの人物がリーダーでは困りますよね(笑)

問題解決の経験がリーダーシップを養う

では、ビジネスの世界でのリーダーシップをもたらす成功体験とは、一体どのようなものなのでしょうか。

端的に言うと、『難しい問題を解決した経験』です。「なぜ売上が増えないのか」、「なぜコストが下がらないのか」といった「なぜ?」の部分に切り込んで解決した経験や、自社商品の問題点を突き止め、周囲を巻き込んで解決した経験などです。こうした成功体験があれば、その人は別の問題にも自信を持って解決に取り組めるようになるでしょう。例えば、日本の製造現場で行われているQCサークルはその典型で、課題を解決して成果を発表するプロセスを経験することで現場の若手たちが自信をつけ、能動的に新たな課題を解決しようとする仕組みが働いています。

学生の皆さんにはピンと来ないかもしれませんが、ビジネスの本質は問題解決にあります。顧客の抱える問題を解決できていないような商品やサービスは価格競争に巻き込まれて低利益に苦しみますが、問題を解決するようなサービス提案をしたり、商品開発につなげたりすることができれば、企業は売上を増やし、利益を増やすことができます。また、社内の業務のやり方を変えて生産性を高めることも、問題解決であり、このことが利益をもたらします。つまり、若いうちに問題解決を経験して自信をつけることが重要で、「こうやってアプローチすれば解決できるはずだ」という経験に基づく自信こそがビジネスにおけるリーダーシップを育んでいくのです。ケンカの強さや運動能力であれば「生まれつき」かもしれませんが、ビジネスで求められるリーダーシップは、全く別物なのです。

最初の5〜10年がリーダーシップの有無を左右する

実は、日本企業でリーダーシップの問題が注目されるようになったのは、平成以降のことです。高度成長やバブルの時代は、若手がどんどん入社しており、新規事業などのテーマは30代あたりの「中堅」に任せるという環境がありました。しかしバブル崩壊以降、採用を絞る企業が増え、30歳になっても部署内で一番若手のままというケースも少なくありません。部下をリーダーに育成しようという上司がいたとしても、その機会を回してもらえるのは管理職一歩手前くらいのベテランです。入社以降の下積み期間が長くなればなるほど、自然にフォロワー気質が身についてしまい、言われたことしかできない人材に育ってしまいます。

結局のところ、就職して最初の5〜10年の間に何かしらの問題を解決した経験の有無が、ビジネスのリーダーシップが身につくかどうかを左右します。年功序列の中で出番が回ってくるのを待っているだけでは、フォロワーにしかなれません。

特に女性は、出産、産休、育休、そして復職までの時間を考えると、時間的余裕はありません。どんなに小さいことでもいいので、問題を解決する経験を積み、自信を身に着けることが必要です。できるだけ早いうちに、小さな成功体験をしておくことが大切です。

学生時代の問題解決の経験は貴重

日本社会の大きな問題は、ビジネスのリーダーシップに必要な経験を積む機会が、入社前も入社後も、限られていることです。難しい問題を解決する上で必要なディベート力やロジカルシンキングを学んだり、養ったりする機会が決定的に少ないのです。

しかし、武庫川女子大学の経営学部では、企業の現場で問題解決を経験できる実践学習プログラムという場があります。さらに、ビジネスシンキングや経営課題演習など、プレゼンテーションや、仲間と議論しながらグループワークで問題の解決法を導き出すという、多くの実践的な授業を通じてリーダーシップを養うのに必要な考える力、巻き込む力、伝える力なども学べます。学生時代に問題解決手法を学んだり、企業が抱える問題を解決する経験をすることは、ビジネスのリーダーシップを身につける近道です。

多くの日本企業では「前例踏襲」のカルチャーが強く作用しています。しかし、その前例とは、デジタル化やグローバル化が起こる以前からのものかもしれません。おかしな前例に気づいたら、それはなぜなのかを考えてみましょう。そして、周囲にその問題意識を説明し、同調してくれる人を巻き込んでいきましょう。自分一人のひらめきで独走していては問題解決にはなりません。自分が「言い出しっぺ」になって、周りを巻き込んでいくことができれば、それがリーダーシップなのです。小さな問題解決を経験して自信を持てれば、より大きな問題の解決にチャレンジしようとするはずです。そうしたアクションを継続することで周囲の人々も一目置くようになり、リーダーシップのある若手として認められるようになるでしょう。

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