• 2023/03/27

    谷口 浩二

持続可能な発展を創造するソーシャルイノベーション人材を育成する

近年、多発する異常気象から環境危機という言葉が使われるようになりました。現在の状況を抱えながら人類が持続可能な発展を遂げるには、産学協働の学生教育が必要です。そして、そのカギを握るのはソーシャルイノベーション教育だと考えられます。今回は、ソーシャルイノベーション人材の育成に必要な考え方、経済的利益と社会的利益を両立させる企業の取り組み事例などについて紹介します。

ソーシャルイノベーション教育が地球の未来を握る

環境危機を抱える社会を変えるのに必要な部分における大学の産学協働教育は、キャリア教育から脱しきれていない現実があると考えられています。例えば、課題設定能力は実践経験だけではなく汎用的、基礎的な学問の素養がなければ設定できません。大学は汎用的、基礎的な能力を学ばせた上で企業と連携して実践的に学ぶ場を提供することが必要です。そうして初めて、持続可能な方法で社会問題を解決するだけではなく、生活の価値や様式を刷新できる人材が育つのです。

SDGsを旗印としつつ、自然社会と技術や環境がベストマッチした社会をめざして世界中の国々がこのジャンルに資金を投入しています。こうした投資マネーを狙って、重厚長大産業やエネルギーインフラを司ってきた企業も再生可能エネルギーや環境への取り組みに力を注いでいます。こうした時代背景の中で、大学は社会に送り出す人材に何を学び身につけてもらうかを考えながら人材教育に取り組まなければなりません。おそらく従来の環境教育は適しておらず、環境にまつわる新たな産業を創造したり、逆にリスクとなる環境悪化を的確にマネジメントできる人材を育ることを求められており、そのカギを握るのがソーシャルイノベーション教育だと考えます。

倫理的教育と社会貢献活動を結びつける実践教育

ソーシャルイノベーション教育とは、革新的で社会に大きなインパクトを与える製品・サービス・ビジネスモデル・社会システム等を生み出す力を養う教育システムを指します。従来の大学教育では課題の分析はできても、企業が抱える社会課題と分析結果をもとに革新的な解決手法を生み出す部分までは教えられません。

たとえば、社会課題となっているプラスチック問題を例にすると、プラスチック問題の構造的課題を論理的思考で導き出し、その課題を事業として成立させながら解決する手法を生み出すことが求められます。そこには、大学と企業の単なる産学協働ではなく、お互いの得意分野や提供可能なリソースをしっかりと提供しながら取り組む必要があります。

また、女子大学では倫理教育を重視する傾向がありますが、ここをビジネスと結びつけることは難しいのが現実です。そこで、倫理とビジネスをバランスよく学び、それを結びつけながら社会に貢献する企業活動を担える人材を育成していくのが良いと考えます。

現在私の授業では、マクドナルドが取り組む病気の子どもとそのご家族が利用できる滞在施設『ドナルド・マクドナルド・ハウス』と提携し、アンバサダーとして活動しながら企業の社会貢献について学ぶ機会を提供しようと準備を進めています。また、カシオ計算機とも提携し、協賛企業として支援中の社会貢献活動『レスバイト旅行』に学生たちも参加させてもらい、実際に企業が取り組む社会貢献活動に参加しながら学び考える機会を提供する予定です。これにより、女子大学ならではの倫理教育を社会貢献活動を結びつけることとなり、より女子大学ならではの実践的な学びとなることを期待しています。

ハウステンボス

社会的利益優先の結果、経済的利益も確保する取り組み

実際に経済的利益を確保しながら社会的な利益の確保も実践している事例をふたつご紹介します。

まずひとつめはハウステンボスです。

ハウステンボスがある場所はもともと荒れ地で、開業前の第一プロジェクトが本来あるべき自然の姿に再生することでした。つまり、1980年代にすでにサスティナビリティを意識して施設全体がデザインされていたのです。40万本の木々を植樹し、汚水は自社内の高度下水処理装置で浄化するなど自然還元サイクルが構築されています。さらに電力の多くを独自のエネルギーシステムで賄うなど、開業後も「持続可能な開発」を実践し、素晴らしい文化と自然環境を保ち続けています。

続いてふたつめはパソナです。

パソナが淡路島で始めた屋外型自然共存レストラン『淡路シェフガーデン』(2022年11月営業終了)は、新型コロナウィルスで集客に苦しむ飲食店、廃コンテナの処理に悩む港町・神戸、耕作放棄地の増加に悩む淡路島、この三者の悩みを一気に解決するプロジェクトでした。オープンエアの空間での「映え」を意識したコンテンツとして、さらにはマイナスとマイナスとマイナスを掛け合わせてプラスに変えたプロジェクトとしても注目されました。

この2つのプロジェクトに共通するのは、目先の利益や見返りに囚われることなく既存ビジネスの利益を投入し、地域のために汗をかいた結果、それぞれの企業には将来的に必ず何かしらの形で経済的利益が返ってくるだろうという点。今回紹介した2つの事例は、『社会的利益を優先した結果、経済的利益も確保』を実践していると言えるでしょう。

淡路シェフガーデン

まず授業で学んだ後、実践の場で改題解決に挑戦しよう

環境危機が叫ばれる中、SDGsというキーワードが多くの人々に認知されるに至りました。今後は実際に持続可能な社会を実現するために、大学は企業との協働学習によるソーシャルイノベーション教育を実施する必要が出てくるでしょう。そして将来的にソーシャルイノベーション教育は、大学にとって企業に必要な人材を育成する上で必須になると考えます。

将来的に社会課題を解決できる人材となるために、学生の皆さんは授業でしっかりと問題意識の醸成や社会課題の解決手法などを学びましょう。その上でさまざまな社会課題と向き合う企業の姿勢や、実際の社会貢献活動を体感しながら課題解決の実践に挑戦していただければ、将来役に立つと感じられる学生生活になると思います。

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