• 2022/01/16

    鈴木 基史

CSVでの社会貢献を実践してみた

最近は、どこにおいてもSDGsが話題になり、その取り組みが議論されています。定義された17の目標を表す色が、全世界を染めているような感じすら受けます。SDGsがめざすものとは、「誰ひとり取り残すことなく持続可能な世界を実現するもの」にほかなりません。そうした目標の実現に向け、大学でもさまざまな取り組みが行われています。
今回は、武庫川女子大学が取り組む「KOBE採用イノベーション・スクール」の紹介に加え、SDGsやCSV(Creating Shared Value)の実践について考えてみましょう。

「『三方良し』で社会貢献」こそが、CSVの理想的な構図

SDGsが世間の注目を集める以前、企業の間では「CSR(corporate social responsibility、社会的責任)」という言葉がトレンドになっていました。これは、環境活動やボランティア、寄付といった活動を通じて、企業としての責任を持って適切な意思決定を行い、社会貢献に取り組むという考え方です。CSRは大変素晴らしいことなのですが、残念ながら企業がこの取り組みから収益や新たな価値を生むことは非常に希なため、持続性も高くありませんでした。

そこでアメリカの学者、マイケル・ポーターが提唱したのがCSV(Creating Shared Value、共通価値の創造)です。例えば、美味しいノンアルコールビールを開発して販売することで飲酒運転する人が減れば、飲酒運転による交通事故が減ることにつながります。そして企業もノンアルコールビールの販売が増えれば収益につながります。交通事故の減少という「社会的価値」とノンアルコールビールの販売増による収益向上という「企業価値」を両立させるのがCSVの考え方です。

実はCSVの考え方は「三方良し」という言葉で、以前から日本に根づいているものです。「売って良し、買って良し、社会に良し」を実践するのがCSVの考え方です。

採用担当者をサポートし、地域課題を解決する

2020年10月から「大学発アーバンイノベーション神戸」の助成を受け、経営学部の山下先生とともに「KOBE採用イノベーション・スクール」を開講しています。この取り組みは、神戸市内の地域中小企業における採用力強化を図ることを目的としています。主な取り組みは3つあり、①地域中小企業における科学に基づいた採用力向上への寄与、②女性を中心とする若い世代の地域内就職に対する意識向上及び就職促進、③中小企業における自社の魅力創出支援、です。今回は、9社10人の方が参加し、全5回の講義とワークショップに取り組みました。

この活動は、採用力の向上による企業価値の向上と地域自治体の人口減抑制、そして経済活性化、さらには神戸市内にある魅力的な企業の発見と、その企業への就業を増やすという目的を達成するために、現在なすべき問題の洗い出しとその解決策を一緒に考えようとするものです。これはまさにSDGs活動そのものと言えます。

さまざまな自治体が地域貢献や地域創生に関する取り組みを行っていますが、その本質は地域産品の開発やハコモノを作ることではなく、社会的な人口減少にいかに歯止めをかけるかにあると考えます。なぜなら、人口減少に歯止めをかけられなければ、学校が統廃合されて減り、それによりファミリー層の人口が減り、病院も減る……といったことが連鎖的に起こってどのビジネスも成り立たなくなり、都市機能が失われていくからです。

「KOBE採用イノベーション・スクール」はCSV実践の場

さまざまな地域課題を解決するには、自分の身の回りにある課題を地域の課題と捉え、地域の課題解決にもつながる解決方法を考え、取り組んでいくことだと考えます。大切なことは、行政や自治体に最初から頼るのではなく、自分たちで解決方法を考えて実行することです。

実行する上で大切なのは、人と人の新たなつながりをどう生んでいくかということ。そのつながりが、さらに新しいイノベーションを生み出します(これをエンゲージメントと言います)。これがまさにCSVの考え方であり、SDGs活動でもあります。SDGsがめざすのは「誰ひとり取り残すことなく持続可能な世界を実現するもの」であるはずです。17ある目標のどれかひとつの実現しか考えていないのでは、真にSDGsに取り組んでいるとは言えないのではないでしょうか。

「KOBE採用イノベーション・スクール」の開講は、学生の地元就職思考が強く、自治体や大学が地元就職意向を強めるための教育や情報提供をしているにも関わらず、受け入れ先となる神戸市内の中小企業が地元就職意向を持つ学生を採用する戦略や手法を知らない、というミスマッチを解消するためものです。中小企業も大手企業と並んで大手採用サイトに掲載して採用活動を行っているケースがほとんどですが、大手企業と同じような内容でアピールしても、採用は難しいのが現状です。

「KOBE採用イノベーション・スクール」に参加した企業の方々には、まず自社の強みや魅力を発見していただき、それを学生に伝えることで採用力を向上させることをめざします。採用や広報に専任者を置けない中小企業にとって、自社を客観的に見て魅力を発見することは非常に難しい。そこを採用を担当する中小企業スタッフに学んでいただくことで、採用力をアップしてもらおうというのが最大の狙いです。

さらに、変化を生み出そうとする時に不可欠となる、『バックキャスティング』の考え方を身につけていただきます。これは抜本的な変化や改革をめざす上で必要となる、未来の姿から逆算して現在の施策を考える発想法です。

学生の皆さんは、目標を見据えて能動的に行動しよう

「KOBE採用イノベーション・スクール」には、私たち大学研究者にも大きなメリットがあります。それは、この場を通じて得た実例や知見、生まれたネットワークを学生の皆さんに授業やゼミで還元できるという点です。私たち大学の先生は、研究者であると同時に教育者でもあります。そして私が知る限り、一流の研究者は一流の教育者であることがほとんど。なぜなら、大学に属して研究をする以上、学生に教育的メリットを提供しなければならない、そしてそれが自分の研究を次世代につなぐことをになると十分に理解しているからです。

私が一流かどうかは横に置いておいて(笑)、研究してきたことや経験を役立てながら自治体や企業の皆さまとともに地域貢献をしていく「KOBE採用イノベーション・スクール」は、その一環であり、この取り組みの成果を学生たちに還元していくことをめざします。

本当に課題解決型の取り組みは難しい。社会に揉まれている社会人や我々研究者でも難しい。学生の皆さんが本当に課題解決型の取り組みに参画しようとするなら、自分なりの目標を見据えて、能動的にアクションしていくことが求められると思います。

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