• 2021/12/24

    西道 実

説明責任を意識しよう。自分にも他者にも

日本の社会には説明責任を果たさないだけでなく、説明責任を求めないという文化的な仕組みがあるように思います。他方で、グローバル化した社会や多様性を認める社会において最も必要とされるのは、今の日本とは真逆の「説明責任」です。私たちがめざす社会と現実社会のギャップを埋め、社会をより良いものにしていくために、若い人たちはどう行動すべきか考えてみましょう。

説明責任をとらない文化

1990年代初頭、『人間を幸福にしない日本というシステム』(著:カレル・ヴァン・ウォルフレン)という本がベストセラーになりました。著者の主張によると、日本は「社会の中にひどい歪みを持った、打ちひしがれた人々の国」だと言うのです。日本人が民主主義国家と思っているこの国は、実は官僚独裁主義とも呼べる社会システムを持つ国で、高級官僚があたかも独裁的な指導者のように国を動かせる権力を維持する仕組みを築き上げ、国民もそれを知らず知らずに支えているというのです。この本で示された異常な社会システムとは、簡単に言うと「権力を担うものが説明責任を果たさない」上に、「国民も説明を求めない」という文化的な仕組みでした。

この仕組みは、30年後の今も「官僚独裁主義」が「官邸独裁主義」に変わった程度で、統治する立場にあるものが「説明する責任を果たさない」、「説明する責任を問われない」という仕組みは現在も維持されています。

本来、民主主義のもとでは説明責任が果たせない統治者や大臣、官僚は、間違いなくその役職にふさわしくないと判断されます。しかし、日本では説明しないことを理由にその役職を解任されることはごく希です。まさに『人の噂も七十五日』がまかり通っています。

ゆるい情報共有から、説明による相互理解へ

こうした『黙して語らず』を良しとする文化は日本の男性社会に根づき染みついた文化です。日本が本当に多様性を認める社会をめざす、世界に開かれた国をめざす、男女平等の国をめざすという目標を掲げるなら、「他者に説明責任を求め、自らもその責任を果たす」ことによって相互理解を進展させることが必須です。

また、このことは社会システムの中だけではなく、私たちの日常生活とも大いに関係します。

私が子どもの頃はテレビや電話は一家に1台が普通でした。そのため電話の取次ぎやチャンネルの争奪戦を通じて生まれる『ゆるいコミュニケーション』なるものが存在していました。これらは機器や道具を共有することで育まれる情報の共有です。しかし、現代はスマートフォンやメールの登場により個人への直通があたりまえになりました。このため『ゆるいコミュニケーション』の機会が激減して情報の共有が遮断されてしまっています。お互いのことを知るには意識的なコミュニケーションが必要な時代になっているのです。つまり、現代は行動や意思決定のプロセスを意識的に説明する必要性が増しています。そのため、お互いに「説明すること」を求め合うことは相互理解を深め、結果的として文化レベルの向上に寄与します。

より良い社会の実現には「女性の感覚」が不可欠

日本の社会はいまだに男性的思考が主流となっていますから「説明しない」「説明を求めない」風潮はなかなか変わらないかもしれません。だからこそ社会を変えるために、若い人たちの力を借りたいと思います。特に武庫川女子大学をはじめとする女子大学で学ぶ学生の皆さんが、「女性の感覚」を大切にしながら社会で活躍することが、おのずと社会を変える原動力になるはずです。若い人たちが説明責任を意識し、人生の先輩に対して積極的に説明を求め、自らもきちんと説明する姿勢を示すことがより良い社会の第一歩になるでしょう。多くの若者が説明しないことを良しとしない意思を表明していけば、社会は変わりはじめます。新たな文化を創造するのはいつの時代も若い力であり、若い力が新しい社会を築いていくのです。

説明責任が明確な社会を育むのは、素直な「なぜ?」の心

本学の学生をはじめとする若い人たちには説明責任を果たす社会をつくるため、常に「なぜ?」と聞く姿勢を大切にしてほしいと思います。若い人の多くはわからないことを「聞くこと」に尻込みしがちです。また、人の意見にはあまり質問したり反論したりしません。でも実は、「なぜ?」と考えて質問することでそこからコミュニケーションが生まれ、それが相互の理解につながっていくのです。なので、子どものように素直になって「なぜ?」と聞ける人になってもらえればと思います。

若い人たちが説明責任をきちんと意識するようになれば、考えるべきことが明確になり、それが共有される社会になります。だからこそ、まずは自分が説明責任を意識するようにしましょう。そして他者にも同様に説明責任を求めましょう。次世代を担う学生たちの多くがそのように考えて行動するようになれば、きっとより良い社会に向かうはずです。

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