• 2020/04/28

    山下 紗矢佳

地域の魅力を検証・把握し、コト消費と関係人口の増加を目指す

日本経済を支えるモノの消費と人の流れ

日本はモノを製造して輸出し経済成長を遂げてきましたが、製造拠点を国内から海外に移すようになり、製造に携わってきた多くの中小企業が衰退しました。また海外製品との競争も激化し、モノづくりによる経済効果が薄れてしまったため、インバウンドを推進する流れに。これにより、モノの消費は海外から国内へと移り、人の流れも変わりました。

その結果、インバウンドによる消費額は2018年には4.5兆円にのぼり、大きな経済効果をもたらしています。しかし一方で、観光公害(オーバーツーリズム)も増加しており、観光客側の視点では『人が多すぎてゆっくり観光できないなど満足度の低下』が、地元住民側の視点では『交通渋滞や騒音、環境破壊』などが問題になっています。

様変わりする外国人観光客を地方へ分散させるために

観光公害の緩和につながるキーワードが‘分散’です。
最近では外国人観光客の動きに変化がみられ、団体ツアー客から個人客へ、また消費するモノやサービスの高級化が進んでいます。
外国人観光客の欲求は‘モノ’よりも体験などの‘コト’にシフトしており、地方を訪れる人も増えています。ゆったりとした時間の流れと空気の美しい場所を求めて、いわゆる田舎を訪ねる人もいます。今後もこの傾向は続くと思われ、いかに外国人観光客を地方へ分散できるかが重要になってくるでしょう。

そのため、受け入れ態勢の整備が必要になると考えられます。
外国人観光客の旅行日程は長期にわたるのが特徴です。そのため、私たち迎え入れる側は、自分たちの地域のみで旅行を完結させるのではなく、次の観光地へ誘導することを念頭に、周辺情報とともに地域の魅力を発信していかなければなりません。

 

兵庫県の地域活性化に向けて

一地方として、兵庫県に目を向けてみると、インバウンドに限らず、吸引力がないのが現状です。関西に観光目的で訪れるのは大阪府、京都府、奈良県であり、兵庫県は素通りする人が少なくありません。交流人口が少ない上に、人口流出も多いという問題も抱えています。

そんな中、兵庫県下で家事代行サービスを営むある企業が、観光客ではなく神戸に滞在する外国人を対象に地元を巡るツアーを取り扱うようになりました。ツアーで利益を得るというより、2次的波及効果で地域の活性化を図るのが狙いです。この企業はツアーの企画にあたり、地元の経営者たちから賛同者を募り、自ら街を巡りながら魅力を探ることから始めたといいます。
ポートアイランドは神戸医療産業都市の拠点として最先端の技術が集積する場所です。神戸は一大真珠産業の街であり、パールミュージアムもあります。歴史ある地域産業には物語があり、それを紐解くことで人々の興味をそそる魅力あるアウトプットが可能になります。

ところがこうした魅力は案外地元の人に広く知られていません。
私は、このツアー企画のように、地域活性化を考えるにあたり、自分たちの住んでいる地域の魅力を検証・把握することが重要だと考えています。

関係人口を増やし、活用することが地域活性化の鍵

私の周囲にも、自分たちの学び舎がある地域のことをよく知らない学生が多くいます。しかし、自分が今居住する地域の魅力を知り、語れることはとても重要です。地域について語ることは、外部の人々との大きなコミュニケーション手段の一つになり得ます。

最近「関係人口」という言葉が使われるようになってきました。
一過性の観光客のような「交流人口」に対して、その土地とゆかりのある人々、何らかの思い入れのある人々を指しています。
ゆかりや思い入れとは、例えば「過去に旅行をして忘れられない思い出がある」「つながりの深い人が住んでいる」「幼少期や学生時代を過ごした思い出深い土地である」などがあげられます。

私のゼミでも地域活性化のプロジェクトで、出石町(現在は豊岡市出石地区)に1週間滞在したことがあります。ゼミの学生たちにとって、この経験は思い出深く貴重なものとなったようです。そのため、彼らも出石町の「関係人口」といえます。このような「関係人口」を増やし、いかに活用するかが地域活性化の鍵となります。「交流人口」だけの1つのカテゴリーに頼ると場合によっては激減してしまう可能性があり、リスクが高いのはご承知のとおりです。
「関係人口」の創出、増加は、私たちの研究にも取り入れていくべきテーマの一つになり得るでしょう。

 

新鮮な視点で、地域の魅力を体感して欲しい

実際の私のゼミでは、兵庫県下の企業や団体から依頼を受けて、学生たちとともに課題解決に取り組むケースがほとんどです。

過去の実績では、例えば出石町の場合、地元での消費額を増やすことと空き地の活用がテーマでした。また淡路市の商工会からの依頼で、淡路島の観光資源を調査したこともあります。こうした観光に関する基礎データの収集は、これまであまりなされていなかったことですので、我々の力が大いに活用される分野だと思います。観光公害に対しても、フィールドワークにおいて聞き取り調査をし、問題点を抽出するなど協力できることがあるでしょう。地域の人たちに第三者の視点を分かりやすく伝えることはとても重要です。

依頼側である企業や団体は、学生たちの新鮮な視点に期待し、自分たちが気付かなかったことを多く発見して欲しいと願っています。そのため、何度か現地に行って調査を重ねるプロジェクトの場合、先入観を持たず、初めて感じる素直な印象を持ち帰り、アウトプットしてもらうようアドバイスします。その後、与えられた課題を念頭に見方を転じながら、吟味していくというプロセスをたどります。

学生たちには、ゼミの活動を通じて地域の魅力を探り地域活性化の一助となるとともに、地元の産業や企業のことをよく知ってもらいたいと思います。現状では、兵庫県下で就職する学生が減ってきていますが、事業内容、待遇面等々、魅力的な優良企業は多数あります。私は地域活性化の取り組みとともに、学生が兵庫県下の企業の魅力を体感できる機会を創出していきたいと考えています。そうして、最終的に兵庫県下で仕事や活動をしようという人が、一人でも多く輩出されることを願っています。

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