• 2020/05/25

    岸本 義之

同質的集団からダイバーシティへ。変革を求められる日本的経営

かつては強みであった日本的経営の特徴

日本的経営という言葉が、かつては強みを表すものとして使われていました。その特徴の一つに「同質的集団であること」が挙げられていました。

同質的集団を形成する源は、終身雇用、年功序列、企業別労働組合、新卒一括採用という日本で一般的な慣行にあります。これによって、各部署に配属された同期の社員同士にネットワークが形成され、その中で情報共有をし、それぞれの企業特有のコミュニケーションやルールが脈々と受け継がれてきました。帰属意識の高い現場の社員たちがボトムアップ型で意思決定を行っており、欧米型の「現場はものを考えるな」というトップダウン型とは大きな違いがみられました。

日本的経営慣行は1950年頃から1980年代にかけては大きな強みとなり、欧米諸国の企業との競争に打ち勝つことができていました。高度成長期の中で愚直に「より良いものをより安く」「追いつけ、追い越せ」の同質的競争を繰り広げていたからです。欧米企業を打ち負かしたあとも、日本企業同士のシェア争いを続けていました。

ところが新興国企業の台頭やITの登場、グローバル化など環境の変化によって、日本的経営慣行は強みとは言えなくなりました。2000年以降はその傾向がより顕著になり、より安い新興国企業との同質的競争になると、むしろ負ける側になってきています。

 

新しいビジネスモデル構築の必要性

日本的経営慣行が強みではなくなった背景について、少し紐解いてみましょう。

半導体技術に支えられたIT革命は、製造業にも大きな影響をもたらしました。すなわち、これまで日本企業が得意としてきたアナログな技術の必要性を後退させ、「ものづくり」による差別化が難しくなり、特にデジタル製品での価格競争は激化しました。人件費が安く、高効率の経営を行う新興国企業の台頭を許す結果となったのです。

価格競争に陥らずに競争に勝つためには、ITを活用した新しいビジネスモデルを構築しなければならず、それには若い人が活躍できる職場が必要です。

加えて、グローバル化においても日本企業は後れをとっていると言わざるを得ません。
日本はトヨタのカンバン方式などの製造現場のノウハウを、海外生産拠点に展開してきましたが、海外の各市場でマーケティングを展開するために現地事情に精通したスタッフに任せるべきところを、日本人駐在員が本社を向いて仕事をしています。

本来のグローバル化を実現するには、現地の優秀な人を採用し、活躍してもらわなければ成り立ちません。
ITのわかる若い人や外国人の活躍を推進するには、これまでのような「同質的集団」(日本人、新卒一括採用、年功序列など)の日本的経営慣行が、むしろ障壁となっているのです。

 

ダイバーシティ経営への転換が鍵

企業経営において最近、ダイバーシティという言葉がよく使われるようになってきました。

ダイバーシティの意味のとらえ方について、日本では性別を意識することが多いようですが、アメリカでは人種の方が強く意識されています。そもそもダイバーシティとは多様性という意味ですから、性別、年齢、人種、価値観を問わず、能力のある人が活躍できる状態を目指すことになります。

ダイバーシティ経営の観点からみると、日本的経営システムの問題点の第一は、新卒一括採用や年功序列がもたらした副産物ともいえる前例主義、過剰な暗黙知(明文化されていない内輪の共有事項)です。このために、中途採用者が活躍しにくい土壌ができ上がっています。

第二は、進まない女性の活躍です。「同質的集団」の中核を担うのは年功序列の頂点層にあるフルタイム勤務の高年齢男性であることから長時間労働が当たり前になっており、育児などとの両立を望む女性の活躍を阻む要因になります。

第三は、「同質的集団」のほとんどが日本人であったことから志向は内向きで、外国人の活躍が実現しがたい状況にあることです。

さらに第四は、若年層の抜擢が進まないために、時代に取り残されがちになってしまうことです。

すなわち、ダイバーシティ経営とは、かつての日本的経営慣行とは真逆と言えるわけです。
しかし、日本にとって新しいビジネスモデルを構築する必要のある今、ダイバーシティ経営へと転換していくことこそが、生き残りへの道だと考えられます。

 

中途採用者の活躍が一つの指標

では、ダイバーシティ経営が実践されている企業であるか否かを見極める指標は何でしょう。

学生が就職の際に企業を選ぶ指標とも言えますが、一つは中途採用者が活躍できているかどうかです。
中途採用者が活躍できるようになれば、自ずと年功序列は崩れていくでしょう。逆に言えば、先述した前例主義や過剰な暗黙知がはびこる職場では中途採用者の活躍はあり得ません。中途採用者が活躍できるなら女性や外国人、若年層の活躍にも期待できます。

ただ、日本的経営慣行で成功体験を積み重ねてきた大企業(昭和もしくはそれ以前からの伝統的企業)がダイバーシティ経営へと大きく転換するのは非常に困難です。そういう意味では、柔軟性に富む新興企業(平成以降に起業された企業)の方がダイバーシティ経営に近い職場環境を有した企業が多いのかもしれません。

中小企業と呼ばれる企業も、その多くは起業家が立ち上げたベンチャーであり、中途採用者や女性、若年層でも有能な人は積極的に登用するところも多いはずです。就職活動の折には、企業規模のみで判断せず、「中途採用者の活躍」について調べ、面接官に聞くと良いでしょう。

 

経営学を学び、即戦力を身に付けることが大切

これからの時代の企業は、「良いものを安く」ではなく、ニーズを見極め「良いものを高く」売ることを考えなければなりません。高い技術力があっても、それに見合った対価が支払われる仕組みをつくらなければ将来性はありません。そのために必要なのはマーケティング力であり、消費者が抱える課題を抽出し、課題を解決するソリューションの提供を実現していくことが重要です。

しかし、前例主義の強い日本的経営にとっては、それは最も不得意とするところでしょう。
ですから若い人たちが中心になり、マーケティングに裏付けされた新しいビジネスモデルを構築することが求められています。

企業の未来を担う学生たちには、しっかり経営学を学び、即戦力を身に付けて欲しいと思っています。男子学生の多くは、日本的経営慣行の良さを味わった父親世代の姿を見ているせいか、年功序列の(大器晩成でも構わない)大企業を志向する傾向がいまだに強いようです。しかし、女子学生は、大器晩成などと言っている間に出産や育児の時期に入ってしまうので、このレールに乗ってしまっては不利なのです。従って男子学生より女子学生の方が、若いうちから自分の能力を高めたいという意識が高いのかもしれません。

今後は管理職に占める女性の割合を意識する企業が増えてくるのは間違いありません。優秀な人材、意識の高い人材をいち早く管理職に引き上げようという動きが活発になってくるでしょう。

そのような社会に出ていく女性たちには、大学で学んだ経営学を生かしつつスキルを磨き、転職しても活躍できるような実力をつけていって欲しいと願っています。

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