• 2023/12/15

    杉井 俊介

「女性はこうあるべき?」隠れたカリキュラムと女性教育

世界経済フォーラムが評価しているジェンダーギャップ指数の2023年度版が発表されました。もともと順位が低かった日本はさらに順位が下がり、先進国の中では最低ランクの順位となりました。大学が関わる教育の分野は平均より上であるものの、日本の現状を見る限り、学問分野による性別の偏りは依然としてみられます。こうした問題の背後には、後に述べる「隠れたカリキュラム」あるいは「無意識のバイアス」と呼ばれる問題があります。

今回は、こうした問題が教育の分野に与える影響を題材として、私たち大学教員にできることや大学教育のあるべき姿について考えてみましょう。

隠れたカリキュラム(無意識のバイアス)とは?

ジェンダーギャップ指数は教育・経済・政治・健康の分野ごとに評価されていますが、日本社会での男女平等はまだ遠いところにあるようです。とりわけ政治の指数が極端に低くなっており、これは女性政治家や女性管理職の少なさを見れば実感できるでしょう。

先述の通り、教育の分野は平均より指数が高いのですが、学問領域をみてみると、人文科学系や家政、看護系分野で学ぶ学生の多くは女性であり、逆に理工学系の分野で学ぶ学生のほとんどが男性です。こうした性別の偏りが存在し続ける背後には「隠れたカリキュラム」あるいは「無意識のバイアス」と呼ばれる問題があります。例えばトイレのピクトグラムのデザインをみてみましょう。男性用が青色でスラックス、女性用が赤色でスカートであることが多く、おそらく大多数の人がそれに疑問を持たないと思います。幼少期からこうした固定観念の環境下で過ごすことで、性別によってそうあることが自然だと考えるようになってしまいます。このような「隠れたカリキュラム」や「無意識のバイアス」が恐ろしいのは、本人が無意識のうちに選択肢を狭めてしまうことです。

女子大学も例外ではない?!

「隠れたカリキュラム」は、女子大学も無縁ではありません。よく知られているように、もともと女子大学は男尊女卑の考えが極めて強かった時代に、「女性に高等教育は不要」という考え方を打破するために誕生したという背景があります。しかも当時はまだ、女子大学に進学しても専業主婦になることを前提とした良妻賢母の育成という性格が強かったことは否めません。これは、女子大学に教養的色彩の強い文学部や家庭との関わりが深い家政学部が多いという事実が、その面影を残しているといえるでしょう。ジェンダーギャップ指数が高かった日本の教育分野も、こうした女子大学の例にみられるように、無意識のバイアスとは決して無縁ではないことが、この問題の根深さを物語っています。

女子大学は変化の過渡期にある

今日では女性の大学進学率が飛躍的に向上し、男性との差が縮まってきたことから、女子大学の設立当初の目的が揺らぎ、その役割が再考される時代となっています。こうした時代の流れを受け、現在は武庫川女子大学を含めた多くの女子大学が「隠れたカリキュラム」や「無意識のバイアス」を払拭する取り組みを進めています。そのひとつの例が、「家庭を守る存在としての女性の育成」から、「ひとりの自立した女性の育成」への目標の変化でしょう。新しい目標は今日の多くの女子大学の掲げる理念と一致することからも、「女子大学は変化の過渡期にある」といえるのではないでしょうか。

女子大学だけでなく、教育界全体で既存のジェンダー観に囚われない考えが普及しつつありますし、専門分野での女性採用や女性管理職も増加しています。政治の世界においても、女性に議席を割り当てるクオータ制が議論され、働き方改革を通じた「共働き」を前提とする制度設計や男性の育休休暇取得の推進など、徐々にではありますがジェンダーギャップの解消に向けた取り組みが始まっています。

大学教員にできることを考える

武庫川女子大学の経営学部のように社会科学系分野の学部が新設され、こうした分野に興味を持って学ぶ女性の数が増えていくことは、とても喜ばしいことだと思います。しかし、ジェンダーギャップ指数からもわかるとおり、日本社会には隠れたカリキュラムや無意識のバイアスが依然として残っています。

私は経営学部で法律の授業を担当していますが、最も注意しているのは「女性はこうあるべき」といった固定観念や「女性なのに」というネガティブなイメージで学生の選択肢を狭めてしまうことです。

大学は知識や教養だけではなく、生き方を学ぶ場でもあります。そして女子大学は女性教育の最前線であると同時に、変化の過渡期にある現状を踏まえると、教育者の役割は一層重要になってくるでしょう。そこで私たち大学教員に何ができて、どのような存在であるべきか……これは難問ではありますが、私としては「女性だからこそ」というポジティブなイメージを大切にしながら、「隠れたカリキュラム」や「無意識のバイアス」に囚われない、学生の自由な生き方を肯定でき、学生の新しい挑戦を後押しできる存在でありたいと考えています。

入試情報

資料請求