前回は「法学のススメ」と題して日常生活の法律問題に焦点を当てました。今回は私が演習授業やゼミで扱っている「ジェンダー問題」に焦点を当てます。ジェンダーを巡る問題は昭和、平成、令和と時代を経る中で目まぐるしく変化しており、まさに「社会の縮図」といえます。今回はこの「ジェンダー」に関する時代ごとの変遷や法律の対応を通じて、法学を学ぶ魅力をご紹介します。
明確な性差が存在した昭和の時代
「男は働いて、女は家庭を守る」という伝統的な考えが強かった昭和の時代。
実際に昭和の時代は、今となっては考えられないような制度が存在していました。例えば、男女で定年が異なる就業規定を設ける会社や、女性だけに育休を認めるといった制度などです。現在はこうした露骨に差別的な制度はなくなりましたが、今も事実上男性が育休を取得しづらいことや、結婚したら当然のように女性側が男性側の姓を選択するといった現実があり、昭和的な価値観が一部残っているといえます。
「男女平等」の議論が始まった平成の時代
昭和の時代の伝統的な考え方が、「なぜ男は家事をしないのか?」や「なぜ女は働いてはいけないのか?」といった具合に大きく揺らぎ始めたのが平成の時代です。
データで見ても、専業主婦世帯数と共働き世帯数が逆転し、世の家庭のメインが共働き世帯になったのも平成に入ってから。こうした昭和の伝統的な考え方が揺らぎ始めたきっかけは、新しい法律の制定や女性の社会的地位の向上にあったと考えられます。昭和の時代は「男性優位」の考え方が当然でしたが、平成に入って「男女平等」の視点から、女性の社会進出がなされるようになりました。上記のように、昭和の価値観の逆といえる疑問が呈されるようになったのもこの頃からです。
また、教育の分野でも大きな変化がみられるようになりました。昔は女性が大学に進学すること自体珍しかったのですが、平成後期には女性の大学進学率が50%を超えるようになりました。また、かつて大学で女性が学ぶ分野といえば、文学部のような人文科学系の学部や、看護系の学部が多く、法学や経営学といった社会科学系の学問を学ぶ女性は希有な存在でしたが、こうした分野に進学する女性が増えたのもこの頃からです。大学で経営学や法学を学ぶ女性が増えてきたことは、起業家や管理職に就く女性の増加にもつながるのではないかと期待しています。
上記のような変化の他にも、夫婦別姓の問題が浮上したり、同性婚の課題が提示されたのも平成の時代です。もっとも、平成の時代は問題点が提示された時代であり、深い話し合いや議論が広まったというのはもう少し先になります。
性差の価値観が変わりつつある令和の時代
そして令和の時代。令和の時代になると、男女を区別すること自体に対して疑問が提起されるようになりました。
最も顕著なのがLGBTQ問題で、「男女」という枠組みで区別すること自体が時代遅れではないかといわれ、「多様な価値観」が語られる時代となりました。そして、この男女の区分を覆す具体的なアクションが伴い始めた時代でもあります。例えば、昨年の東京オリンピックではトランスジェンダーの選手が登場し、大きな話題となりました。現在ではLGBTQに関する授業は高校でも行われていますし、大学でもトランスジェンダーの学生の扱いについて議論された結果、一部の女子大学で受け入れられるようになりました。必ずしも身体的な意味だけで男性・女性を決めてよいかなど、ジェンダー問題については試行錯誤を重ねながら、現在進行形で人々の価値観が変化しています。
平成の時代は一部の人が声をあげている程度だったものが、令和の時代になってより多くの人に認識されるようになったことに伴い、平成の時代に提起された問題に対する答えが求められつつあるのが令和の時代といえるでしょう。
法学での学びが経営学を学ぶ際に生きてくる
もともと女子大学は「大学は女性が学ぶ場所ではない」とされていた時代に、性差関係なく高等教育の機会を提供するために創設されました。その意味では創設時の価値観は今日揺らいでいるといえるでしょう。ジェンダー問題に真摯に対応することは、男女の大学進学率にほぼ差がない現代に女子大学の存在意義を問い直し、女子大学だからできることを改めて考え直すという意味でも重要なアクションになると考えます。
時代や価値観の変化は法律に関係する問題でもありますが、ジェンダー問題に関しては法律が追いついていない分野でもあります。法律は非常に保守的な考えが強いため、まだ男は男、女は女であることを前提にできるだけ平等にするという考え方が主流です。しかし、時代の流れに合わせて変化するのが法律。上述した同性婚や夫婦別姓はまだ制度として認められていませんが、令和の時代の取り組みをみれば、人々の意識の変化はやがて法律にも影響を与えるでしょう。
経営学はどうしてもヒト・モノ・カネといったある一部にフォーカスして学ぶケースが多いようですが、法学は社会の流れ全体を俯瞰的な視点で見ることが求められます。経営学とは全く異なる視点で社会を見る法学での学びがあれば、きっと経営学を学ぶ際に生きてくるでしょうし、視野が広くなると思います。