• 2020/07/20

    神栄 美穂

<連載>コロナ禍のビューティートレンドエッセイ 第1回 ”Withマスク・ビューティー”:メイクアップ編 ①

“Stay Safe & Beautiful”(安全に、かつ、美しくありたい)。昨今のコロナ禍で、女性たちの美に対するインサイトとして最も際立ち、切実なニーズではないでしょうか。5月14日に緊急事態宣言が解除されてから、新しい生活様式にとってマスクは私たちの生活と切り離せないものとなりました。美容・ファッション業界でもマスクは「美の一部」として取り上げられ、Vogue Arabia版の#Stay Homeキャンペーン では、以前表紙を飾ったビジュアルにマスクを着けたリメイク版が作成されています。スーパーモデルのイマン・モハメド・アブドゥルマジドも彼女のインスタグラムに、かつてVogueの表紙(2018年3月号)を飾ったメイクと衣装の上に、新しくマスクを着けたリメイクフォトを掲載しています(2020年4月17日) 。ハイ・ファッションを身に纏い、堂々と前を見据えるマスク姿の彼女は、オリジナルの表紙の「美しさ」と比べても全く違和感を感じさせない、「安全な美しさ(Stay Safe & Beautiful)」を表現していると思いますので、ぜひ検索してご覧ください。

とは言え、日常の生活でマスクを着け続けるのは、花粉症の人が春先に経験した時期を除いて、ほとんどの女性たちにとって初めての経験となります。しかも季節は気温も湿度も高まる夏に向かうので、様々な問題に直面することが容易に予想されます。本エッセイでは、街でもマスク姿の女性が溢れかえっている中、「安全(Stay Safe)は守りつつ、いかに美しく(Beautiful)あるか」についてのニーズや今後の化粧品開発のトレンドについて、考えていきたいと思います。

マスクを着けている時のメイクってどうしてる?

第1回は、「”Withマスク・ビューティー”:メイクアップ編①」と題して、「マスクを着けている時のメイクアップのニーズ」について、掘り下げていきたいと思います。コロナ禍においては、化粧品業界も大きく売上減少の影響を受けた業界の一つでした。そもそもメイクアップ(化粧)をすることは、自分の見た目を社会的に表現するものですから、外出自粛に伴って外出機会が減ると、メイクアップをする機会も減り、メイクアップ製品の消費は減少します。そして、緊急事態宣言に伴う百貨店の営業自粛や、宣言解除後も続く百貨店・ドラッグストアなどの店頭テスター(試用品)の撤去なども、通常の化粧品の購買を妨げる要素としてインパクトは大きかったと思います。そして、最も影響を及ぼしたのは、「マスクを着けること」が常態化した、新しい生活様式に対応した「マスクメイクアップ」の登場です。

皆さんはマスクを着けている時、どの程度メイクアップをされているでしょうか。外出の目的や長さにもよると思いますが、マスクを着けなくてもよかった頃と比べると、少しメイクアップの習慣が変わってきているのではないでしょうか。習慣や行動が変わるのは、それに対するニーズに変化があったからです。マスクをしていると、顔の下半分が隠れてしまうため、「ほぼノーメイク」・「メイクをしない」という人もいると思います。でも、外出先で食べたり、飲み物を飲んだりすることがあるなど、マスクを外す機会がある場合などは、マスクの下にメイクをするでしょうし、マスクを外さないとしても、仕事の時などは「ノーメイクというわけにはいかない」という人も多いと思います。そこで、「マスクを着けていてもメイクをする女性」の求める化粧品のニーズについて見ていきましょう。

マスクメイクアップの化粧品に対する2つのニーズとは

「マスクを着けていてもメイクをする」場合でも、ほとんどの人は必要最低限のメイクに留まると思います。それは、「メイクをしていてもマスクで隠れて見えないから」という理由以外に、「マスクをしていると、メイクが取れるから」という理由があります。マスクメイクアップにおいて、マスクを着けている時間と外している時間の割合は、「着けている時間」の方が長いのですが、メイクアップが実際に力を発揮して欲しいのは、「マスクを外している時間」です。マスクを外す「いざ!」という時に、せっかく家できっちりと仕上げてきたメイクが、剥げたりよれたりして、崩れてしまっていると、本当にがっかりしますよね。そこで、「マスクを着けていてもメイクをする女性」の求める化粧品のニーズの一つ目は「メイクアップ製品の化粧持ち(ラスティング)」です。もっと具体的に言うと、「マスクを着けている長時間の高温多湿や摩擦などの影響による悪環境でも、付けたてのメイクの仕上がりを保ってくれる化粧持ち(ラスティング)の良い化粧品」こそ、理想的です。「化粧持ち(ラスティング)」を左右するのは、「肌表面の“油分と水分”のバランス」なのですが、マスクメイクアップでは、この相反する2つの「バランス」を保つのはとても難しい状態です。メイクアップ製品に含まれる「オイル系原料(油分)」と肌から分泌される「皮脂(油分)」、そしてマスクの中の「高温多湿の環境(息・汗)」が混ざる相乗効果によって、マスクの中のメイクは非常に崩れやすくなっているのです。

もう一つ、「マスクを着けていてもメイクをする女性」の求める化粧品のニーズがあります。先ほどの「化粧持ち(ラスティング)」にも関連するのですが、「メイクアップ製品がマスクに色移りしない(ノン・トランスファー)」という点です。メイクアップ製品は、パウダー系・クリーム系・リキッド系などの剤型があるのですが、どれも肌や唇・まつ毛・眉毛の「上」に塗布することによってメイクアップ効果を引き出すものです。肌の中に浸透するものは「ティント」と呼ばれる、染料系の処方のみで、まだ数が少ないのです。肌表面に塗布されているだけの製品は、物理的な摩擦に対してはなすすべがありません。マスクの下のファンデーションや口紅、チークなどが取れてしまうのは、摩擦による物理的な側面も大きいのです。そこで、それと関連して、女性のニーズとして際立っているのが、「マスクの裏面に化粧品(ファンデーション・チーク・口紅等)が色移りして欲しくない」というものです。マスクを外した時、色移りした化粧品が付いたマスクは、それを少しでも目にした他人を不快な気分にさせてしまいますし、自分自身としても「こんなに塗ってたのか・・・」と改めて思わされたりして、あまり気分が良いものではありませんよね。また、布マスクの場合は、化粧汚れを洗濯できれいに落とす際、口紅などは落ちにくい場合もあって面倒なことも多くあります。

「マスクを着けていてもメイクをする女性」の求める化粧品のニーズについて、SNS上や女性雑誌・美容雑誌ではさまざまな化粧品が紹介されています。典型的には「落ちにくいリップ」や「マスクに色移りしないファンデーション」などです。それ以外に、コロナ禍まではあまり注目されていなかったのですが、最近注目されつつあるのが「メイクキープミスト(メイクキープスプレー)」または「フィックスミスト(フィックススプレー)」と呼ばれる、メイク崩れ防止効果のあるミスト状化粧水です。メイクを仕上げた後、肌にシュッとスプレーすることによって、メイクを肌にぴったりと密着させ、汗・皮脂によるメイクの崩れ、ヨレ、色あせ、マスクへの色移りなどを防いでくれます。市場でも、今年の4月から6月にかけて、非常に多くのブランドから新製品が発売されています。このミスト状化粧水一品で、「メイクアップ製品の化粧持ち(ラスティング)」と「メイクアップ製品が色移りしない(ノン・トランスファー)」というニーズが必ずしも完璧に解消されるわけではありませんが、ミスト状化粧水に含まれるポリマーや皮脂吸収パウダー、保湿剤などの効果により、一定の「メイクキープ効果」は見込まれるのではないかと思います。

以上、「マスクを着けていてもメイクをする女性」の求める2つの化粧品のニーズについて、まとめてみました。本エッセイ第2回以降では、マスクメイクアップのその他のニーズやスキンケアのニーズ、そしてそれらに対応するであろう、企業の今後の化粧品開発のトレンドなどを考えていきたいと思います。

経営学部では、このように消費者のニーズの変化を探ったり、そのような変化による企業の動向などを仮説を立てながら考える演習を行っています。興味を持たれた方は、学生を交えた産学連携も行っていますので、ぜひお声をおかけください。また、受験生の方は、ぜひオープンキャンパスや入試相談会にお越しください。

【筆者プロフィール】
外資系企業に23年間勤め、うち12年間をフランス系化粧品企業のアジアイノベーションセンターやリサーチ&イノベーションセンター イノベーション本部にて、日本・韓国・中国の消費者のニーズやビューティートレンドを調査・分析し、化粧品(スキンケア・メイクアップ・ヘアケア・ヘアカラー)のグローバル製品開発に携わる経験を持つ。経営学修士。

【参考文献】
Vogueホームページより https://en.vogue.me/culture/vogue-arabia-covers-face-masks-covid-19/(2020年7月3日)
イマン インスタグラムより https://www.instagram.com/the_real_iman/?hl=ja(2020年7月3日)

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