2023年は、Z世代女子大生にとってどのような1年に受け止められているのか、2023年最後のゼミ(2023年12月21日)で、トレンドワークショップを行いました。Z世代武庫川女子大生がまとめた2023年の「トレンドキーワード」を、流行ったモノの具体例と共に紹介します。
経営学科 准教授 神栄美穂
皆さんの2023年はどんな1年だったでしょうか。
2022年と比べて最も大きく変わったことは、やはり新型コロナウィルス感染症が2023年5月8日に「5類感染症」に移行したことでしょう。「マスク着用」についても、2023年3月13日以降は「個人の判断」となりました。コンサート・スポーツ観戦・飲食店に対する制限(時短営業・人数制限・音無応援など)もなくなり、人の動きはほぼコロナ前に戻りました。海外からの旅行客も増え、国内経済が再活性化される機運にありました。
一方で、2023年は「インフレ」という言葉をよく耳にしました。グローバル化された今日のビジネスにとって、「円安」・「原油高」・「ウクライナやガザ地区での紛争」などの影響は非常に大きいものです。ガソリンや食料品をはじめとする「物の値段」が次々と上がりました。しかし、家計を支える賃金や、学生が手にするアルバイト料はインフレ上昇率には追いついていないため、物価高の影響は避けられません。
そこで、このような2023年は、Z世代女子大生にとってどのような1年に受け止められているのか、「トレンド」を分析してみたいと思いました。「トレンド」とは、時代の趨勢、流行を意味し、その時々の「空気感」を映します。トレンドを読み取ることで、「現状」の消費者センチメントを知ることができ、「将来」のトレンド予測にもつなげることが出来ます。このコラムでは、2023年最後のゼミ(2023年12月21日)で、以下の2つのリサーチクエスチョンを探るため、私のゼミ生(イノベーション・マネジメント研究室:3年生8名)とトレンドワークショップを行った結果を紹介したいと思います。
- 『2023年は一体どのような商品・サービス・言葉などが「流行った」のか』
- 『その「流行ったモノ」の背景にあるニーズや感情はどういうものなのか』
トレンドワークショップの手順は以下のようになります。まず、ゼミ生を2グループに分け、各グループで2023年に流行ったモノ(商品・ファッション・化粧品・食品・飲み物・言葉・エンターテインメントなど何でも)をリストアップしてもらいました。これは各自が事前に調べたり、考えたりしてもらったものを基にグループで話し合い、さらにいろいろと思い出したり、インターネットで検索して確かめたりしながら作成しました。次に、それらを共通のキーワード・テーマでグループ分けをします。この時のグループ分けは、安易な分け方に留まることが多いため、まだ「トレンド」とはみなせません。たとえば、「インフルエンサーが発信して流行ったから“インフルエンサー系”」という括り方という感じです。ですから、最後に「それはなぜ流行ったのか(理由)」・「どんなニーズが隠されているのか」という点を話し合って、最終的な「トレンドキーワード」を探ることになります。
それでは、Z世代武庫川女子大生がまとめた2023年の「トレンドキーワード」を、流行ったモノの具体例と共にご紹介します。ただし、以下に挙げる「流行ったモノ」はあくまで当ゼミ生の認識しているモノのリストになります。売上やマーケットシェアなど、客観的な数字の裏付けがあるものではありませんので、ご承知おきください。
①「韓国!憧れ!」・「やっぱり韓国アイドルのようになりたい」
【流行ったモノの具体例】 |
– ウォン・ジョンヨ (TWICEのメイクアップアーティスト、ウォン・ジョンヨ氏が立ち上げたメイクアップブランド)
– TIRTIR、rom&nd、LAKA、AMUSE(メイクアップブランド) – リードルショット(塗る天然針美容液) – カチモリ(あえて毛先を残したタイトなお団子ヘア) – 白玉点滴(美肌・美白のための点滴) – Mardi、Matin Kim(韓国アパレルブランド) – 10円パン、チュロス(韓国発で流行ったスイーツ) – Boys Planet・ボイプラ(グローバルオーディション) – 空中ステップ(韓国のTikTokで流行ったダンス) – MBTI(性格判断テスト) |
皆さんはここに挙げられたモノをいくつ知っていますか? 具体例に挙げられたモノは化粧やファッション、食べ物など、多岐にわたるもので、2023年も韓国人気は根強かったと言えます。おそらく、年代によって知っている数が違うのではないかと思いますが、Z世代女子大生は韓国について本当によく知っています!K-Popアイドルの勢いも衰えることなく続いているように、「韓国」のイメージは「おしゃれ」・「かわいい」・「かっこいい」など、依然として「憧れ」的な要素が大きいようです。コロナ禍の水際対策が緩和された2023年の夏休みには、ゼミ生の中でも韓国旅行を楽しんだ学生が複数いました。
②「インフルエンサー発のモノは要チェック!」・「話のネタとして知っとかないと!」
【流行ったモノの具体例】 |
– みそきん・みそる・みそま(YouTuberのHIKAKIN・ヒカル・へずまりゅうが作った味噌ラーメン)
– ひき肉です!(YouTuberグループ「ちょんまげ小僧」のメンバー、「ひき肉」によるあいさつ) – cipi cipi(美容系YouTuber・ふくれな。がプロデュースするコスメブランド) – スイカゲーム(フルーツを落としてくっつけて大きくしていき、最終的にスイカを目指すWebゲーム) – 8番出口(Steamでリリースされた、脱出系のホラー・ウォーキングシミュレーターゲーム) – ヒス構文(ヒステリック構文の略で、母親がヒステリックな口調で話を飛躍させる・あるいはすり替えて責めてくることを指す) |
このテーマで挙げられたものは、必ずしも自分が「それがいい!」と思っているわけではなく、「(Z世代間の)話のネタ」として検索したり、使ったりしているモノです。知っていると、他の人達とSNS上でつながったり、話題を共有したり出来るため、Web上で発信されている商品・サービスに関しては、一応、目を通します。ただ、これらは「話のネタ」として使用するものなので、話題性はありますが、韓国発のモノとは違い、あまり「憧れ」や「おしゃれ」などのイメージは薄いようです。
③「〇〇系女子としての自己表現・私を見てほしい!・・・のに満たされない⁈」
【流行ったモノの具体例】 |
– 港区女子(東京都港区を中心に、ハイスペックな男性との結婚を狙う20代女性のこと、港区女子の持つバッグの定番として、Lady Diorも人気に)
– 犬系彼女(甘え上手で、感情表現がストレートな女子、ツンデレ系の猫系の逆) – 頂き女子・パパ活女子 – メジコン(オーバードーズで問題になったOTC咳止め薬) |
「〇〇系女子」というラベルは、これまでもよく使われてきました。武庫川女子大生にとって、2023年にメディアを賑わした、具体例に挙げられているような「〇〇系女子」については、やはりこれらも「自分たちもこうなりたい!」と思っているわけではありません。それよりも、「私を見てほしい!」という承認欲求や自己表現が少しゆがんだ形になって現れたモノとして、少し引いた目線で捉えているようです。特に、「頂き女子」や「メジコン」などは、犯罪や社会問題にもなりました。
④「逆に昔のモノって最先端?!」・「昔に戻りたいかも⁈ 良さを再確認!」
【流行ったモノの具体例】 |
– Hello キティ
– Be Real(1日に1回、ランダムに送られてくる通知が来た際に、無加工の写真を投稿するアプリ) – Y2K – 女児系:ラブベリ(オシャレ魔女ラブ and ベリー)、プリキュア、ぴちぴちピッチ、メゾピアノ、なかむらくん – リボン – ムートン – アサイー |
最後に、この数年「レトロブーム」と言われていますが、2023年もそのトレンドは引き続き見られました。マクドナルドがHello キティとコラボレーションしたハッピーセットの企画は、予定よりも早く販売終了となったり[i]、女児系のキャラクター(ラブベリ・ぶりキュア・なかむらくんなど)も再燃したりしました。これまでの「レトロブーム」では、単に昔を懐かしむ、ノスタルジー感がブームを支えてきましたが、それに加えて「昔のモノの良さを再確認」した気運が見受けられます。学生から、「逆に、昔のモノの方が今よりも最先端な気がする。」という声も聞かれました。
Be Realというアプリが浸透したことも、興味深い現象です。これまではインスタグラムなどに投稿する写真は、自分のタイミングで撮った写真を、加工アプリで様々な「映え加工」を施してから投稿していたのに、Be Realでは「いつ来るか分からない通知」が来てから2分以内に、「無加工の写真」を投稿するのです。これは、「デジタル加工・バーチャルの世界」に対するアンチテーゼで、ただ「自分のリアルな日常」をシェアするだけのものです。Be Realには、「いいね」や「フォロワー」などの機能がないため、数を気にするストレスもありません。インスタグラムやX(旧ツイッター)のデジタルストレスの無い日常(=SNSの無かった昔)をBe Realは提供しているといえます。私のゼミでも、ゼミ合宿中に「あ、Be Real来た!はい、撮るよ~!」という声とともに写真を撮っていた学生が何人もいました。
以上、Z世代武庫川女子大生にとっての2023年の4つのトレンドキーワードから鑑みると、今の日本の問題点が浮かび上がってくるように思えます。
「韓国」に憧れ、「昔に戻りたい」と感じているということは、もしかすると「今の日本」に対する満足度は低いのではないでしょうか。日本のインフルエンサーが発信することは、「話のネタ」としては情報を仕入れるけれど、必ずしもそこに「憧れ」や「購入意向」があるわけではありません。また、同年代の女子の行動を俯瞰する目にも、「今の日本での生きづらさ」が映っているように思います。そして、「人とつながっていたい・認めてもらいたい」というニーズは引き続き根強いのですが、それはデジタルだけでなく、リアルな「人とのつながり」の必要性がうかがえます。
2024年は、新型コロナウィルス感染症とも共存する2年目となり、この数年、距離を置きがちだった「人とのつながり」を再構築してほしいと思います。そして何より、2024年は、ぜひとも「今の日本が一番!」と思えるような希望溢れる一年にしていきたいですね。
[i] 日本マクドナルド 2023年12月22日「ハッピーセット®「ハローキティ 50周年」早期販売終了のお知らせ」 https://www.mcdonalds.co.jp/company/info/2023/1222a/