• 2022/03/14

    宗平 順巳

日本がDXの取り組みに遅れている理由

経済産業省の発表によると、日本企業は世界の国々に比べてデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが遅れているそうです。その差は、現在の日本企業の取り組み状況が、5年前の世界の国々のDX取り組み状況にすら届いていないという衝撃的なものでした。

ここではなぜこのような差が生じているのか、この差を解消すべき次世代の人材が身につけておくべき思考やスキルとは何か、ほかにもコロナ禍がDXに与えた影響などについて考えてみましょう。

日本企業の9割がDX未対応の現実

2020年12月末に発表された経済産業省の「DXレポート2」では、調査対象の日本企業のうち約9割がDXについては未着手か着手を始めたばかりの状況でした。これに対し、MIT Sloan Schoolが2015年秋にDeloitteとともに行った調査では、海外企業の約9割がデジタル技術によって産業構造に破壊をもたらすと考えており、約44%がDXへの準備ができていると回答しました。

なぜ日本企業はDXの取り組みを進められないのでしょうか。一番のポイントはデジタル技術の持つインパクトについて、日本ではこれまでのIT同様効率化の道具としてしか見ていないのに対し、海外ではデジタル技術によって世の中が激変するという環境要件としてデジタル技術を捉え、その変化する世の中で生き残るためにデジタル技術を活用しようとしているという点に違いがあると考えられます。一般的に「日本企業は守りのIT、海外企業は攻めのIT」と称される理由はこうした点にあるのでしょう。もちろんITを通じた効率化は必要ですが、DXはさらに一歩考えを進め、デジタル技術は産業構造を大きく変え、社会をも変える存在だから、対応しないと未来の社会で生き残れないものなのだ、という意識が必要だと思います。

日本社会にはDXで社会を変える意識の醸成が必要

DXへの対応が遅れている日本ですが、コロナ禍が日本企業のDXを大きく前進させる要因となっているのも事実です。「ニューノーマル」という言葉が生まれてリモートワークが一般化し、押印の必要がなくなるなど、これまで疑問を持たずに行われてきた慣習が、ニューノーマルな社会の要望とデジタル技術の進化によって、リモートでの打合せ、リモートセミナーの様に変化しました。ビジネス面以上に、一般の人々の購買行動も実店舗での購入が減り、インターネットでの購入が増えるなど、デジタルベース、スマホベースの活動領域が大きく広がりました。

これまでは、コロナ禍などの外的要因によって日本の企業(大企業も中小企業も)はDXへの取り組みを強いられる形でしたが、今後は各経営者の意識がDXへの取り組みスピードを左右するでしょう。現状は、例えば対面販売だけだったのをEコマースも進める、といった具合に、「今できていないことをできるようにしよう」という受け身のデジタル化で止まっているのが現実です。ここで止まるのではなく、デジタル技術を使って顧客課題や社会課題を解決するための新たな取り組みにチャレンジするなど、未来に向けたビジョンを持ってDXに取り組んで欲しいと考えます。

もちろん、そうした未来のビジョンを持ってDXに取り組む企業も徐々に増えつつあります。

例えば、旭化成はDX企業となるためのロードマップを作成し、全社的にDX人材を育成する取り組みを進めてきました。デジタル活用を段階的に進めていった結果、全社員がデジタル活用できる人材となりました。しかも、これが企業内DXを推進する素地となって、既に400ものデジタルテーマを同時並行で取り組んでいるそうです。

DX実現のため『両利きの経営』を

ここまではDXを推進するべくデジタルで新しい取り組みを始めることの大切さを説明してきましたが、さらに大切なことはデジタルで新しい取り組みを始めても、すぐに事業の主軸にはなるところまでの成果は期待できないという点です。なぜなら、新しい取り組みが必ず成功するわけではありませんし、テストして結果から学び、ブラッシュアップして再びテストするという「テスト&ラーン」を繰り返すスタイルが基本となるため、立ち上げ間もない新事業は当面利益を生まないと考えておくべきです。

真のDXを実現するには企業が存続し続けることが必要で、そのためには既存ビジネスを維持しながら新事業の挑戦を進めていくという「両利きの経営」が必要となるのです。

リスペクトや協調性のある『共創』がDX成功のカギ

デジタルネイティブな若い人材は、既存の会社の事業内容やビジネスの進め方に大いなる違和感を感じるはずです。それを変革することはとても素晴らしいことですが、ベテラン社員は既存事業を中心に活躍してもらい、若い人は将来のコア人材として新事業に振り向けることで成長してもらうなど、企業の成長プロセスの尊重や抱える課題なども理解しつつ、過去や先輩社員をリスペクトした上で対立を避け、協調しながら新たな取り組みに挑戦していただきたいと考えます。

また、デジタル技術は企業のビジネスの枠組みや働く人の働き方を大きく変化させます。たとえトラディショナルな業界でも、社内でデジタル技術を備えた若い社員と既存のビジネスを成長させてきたベテラン社員が、あるいは社内外の人々がデジタル技術を活用しながら『共創』することで企業が成長できれば、それこそがまさにDXがめざすところだと言えます。

武庫川女子大学経営学部で取り組んでいる実践学習も、企業や団体で働く人々と学生の『共創』です。ぜひ学生の皆さんも、実践学習で広い視野と相手をリスペクトして協調するという,

『共創』を成功させる上で最も大切なスキルを学んでいただければと思います。

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