2021年、労働組合の全国組織である連合(日本労働組合総連合会)に女性初のトップとして芳野友子氏が会長に就任し、2026年現在、就任5年目を迎えています。今回は、2026年5月に芳野氏と意見交換する機会を得たことを機に、これまでの功績と労働界の未来について考えてみます。

「快挙」への期待とその裏返しのような不安
芳野氏とのご縁は、2021年に就任が決まった際に、喜ばしさと一抹の不安を「日本経済新聞」に寄稿( https://sba.mukogawa-u.ac.jp/topics/news/1048/ )したことに始まります。クミジョ研究を続ける中で、男性型組織の典型である労働組合のトップに女性が就任するのは、女性が総理大臣になるより難しいと思っていただけに「快挙」だと感じたのです。
ただ同時に、トップが女性になったからといって組織が変わるのかという「期待の裏返しのような不安」も感じていました。女性である芳野氏が会長に就任した後に、男性のように振る舞わないと組織が動かなかったり、女性に寄り添った視点で変革を進めることができないようなら、労働組合は何も変わらないと感じ、こうした想いで寄稿しました。
芳野会長が実現した2つの大きな成果
男性型組織の典型である労働組合の全国組織で、初の女性会長に就任し、数多くの成果を出してきた芳野氏。ここでは特に大きな成果を2つ紹介します。
第一に、連合への国民の注目度を高めた点です。「ジェンダー平等」という言葉で流行語大賞トップ10に入り、受賞するなど、メディアで連合が取り上げられる機会も増えました。第二に、大幅な賃上げの実現です。社会環境的な追い風はあったものの、これほどの賃上げを主導した実績は紛れもない成果です。
特に芳野氏が素晴らしいのは、これまでの連合トップとは異なる視点で組織を導き続けている点です。典型的な男性型組織のトップとなると従来型のリーダーシップに寄りがちですが、芳野氏はそうした「カタチ」にとらわれることなく連合を導いています。だからこそメディアも芳野氏の言葉や動きに注目するのでしょう。
意見交換の場で感じた「焦り」の正体を考える

東京都千代田区の連合会館にて芳野氏と。
2026年5月、連合会長に就任後に素晴らしい成果を出し続ける芳野氏と、労働界の現状や未来などについて意見交換させていただく機会を得ました。和やかに行われた意見交換の場で感じたのは、「満足感」ではなく漫然とした「焦り」のようなものでした。
その「焦り」の根源は何なのか考えてみたところ、女性である芳野氏自身が会長となって率先垂範しているのに、思うように進まない現実に対する忸怩たる思いが、私の目には「焦り」のように映ったのだと考えました。事実、芳野氏がトップに就任して5年目になりますが、その間、クミジョは微増にとどまっていますし、労働組合の大きな委員会や大会への女性参加率も3割程度にとどまっているのです。
ただ、この原因は会社で働く女性社員やクミジョにあるのではなく、労働組合には経営学でいう「組織能力(ビジョンを具現化して実行する力)」が不足している点にあります。労働組合の中には「女性組合員を増やし、活躍してもらいたい」という旗を掲げつつ、実はその動きを抑圧するような力、私が「黒い力学」と呼ぶ力が働いているのです。
ジェンダー不平等は、労働組合だけではなく日本全国の企業や団体、人間関係の中で発生しています。本来ジェンダー不平等を正すべき労働組合が同じ状況に陥っている、まさに「消防署の火事」状態です。そんな状態の組織の中では、影響力の大きさやめざすべき方向性を理解できても、加わって活動することに二の足を踏むのは当然と言えるでしょう。
「快挙」を後世に残すために
連合のトップとして大きな成果を出しつつ、クミジョのトップとして労働界を変えようと奮闘する芳野氏を応援しています。しかし、女性組合員が「黒い力学」に愛想を尽かし、さらに次の連合会長に芳野氏の意欲や行動をよしとしない男性が就任したら、変革のスピードが落ちるどころか後退しかねません。男性の中にある女性に対する無意識の小さな差別(マイクロ・アグレッション)によって組織の変革が阻害され、結果的に変化を実感できない女性組合員が、労働界にそっぽを向いてしまいかねないからです。国民もそれを見抜くことでしょう。
労働組合にはさまざまな課題があるものの、それでも働く女性が労働組合に参画するメリットは大きいと言えます。自分を含めた仲間たちの賃上げを勝ち取ったり、女性の社会的地位向上に直接参画できるなど、世の中を変える力を手に入れることができますから。「消防署の火事」状態の中で「黒い力学」に抗うのは容易ではありませんが、その先にこそ変革があります。
労働界の未来は、働くすべての人の未来に直結しています。芳野氏の連合会長就任が「快挙」として後世に残るためにも、女性組合員が自由にいきいきと活動できる労働界の実現を願い、今後も研究や提言を続けていきます。

