• 2021/02/12

    藤井 善仁

評価学、政策評価論について考える

世の中にはさまざまな学問がありますが、その中に評価学という学問分野があります。例えば、市場を通じて価値がつく経済学の場合、その価値自体を敢えて学問的に明らかにする必要はありません。一方で、市場価値では見えない真の値打ちを明らかにし、社会に対する情報提供を基本とする学問領域として評価学なるものが存在します。評価学において、政策に関し、評価することを政策評価論といいますが、今回は政策と評価について考えてみたいと思います。

市場価値がつかないものを評価する『評価学』

評価学が存在するのは、社会的に価値が明らかになる方が望ましいが、市場による価値付けが必ずしも適正に行われにくいものが世の中にはたくさん存在するからです。

例えば、骨董品の壺が市場取引の中で100万円の価格が付いているのは、まさに市場が定めた経済的価値といえるでしょう。それに対して、「昔、私の家に飾ってあったのと同じ物」といった『経済的価値はつかないが重要な要素』やもっと専門的視点からみた価値というものが別途あるかもしれません。このような目に見えない価値を明らかにしたものが評価学的価値であり、それを政策について行うのが政策評価論です。

政策効果を見極める政策評価

政策評価とは、政府や行政機関が提唱する政策を客観的、科学的に評価しようという試みです。公共政策はその典型といえます。

政策の価値には様々な議論がある訳ですが、その多くには、ある種の歪みがあることも事実です。したがって、真の価値を科学的に明らかにせんとしているのが公共政策です。例えば,自治体などの政策担当者からすると政策効果があるに決まっていると考えるかもしれませんが、本当はどうであろうか,実は効果がなければ無駄ではないかという議論をする必要があるため、真の効果、真の価値を探る必要がある訳です。

近年、人口減少緩和策のひとつとして『移住、定住政策』を実施している自治体が増えています。リモートワークの増加や田舎暮らしに憧れる人の増加に伴い、移住に興味を示す人や実際に移住する人が増加傾向にあるデータも観察されつつあります。しかし、国や自治体の移住、定住関連施策が、本当に移住の決断をさせたのか、それとも政策とは関係ない自然や人といった地域の魅力という価値が移住を後押ししたのかは評価が明らかになっていません。通常、政策を直接認識した結果がアウトカムとなることは考えづらいため、移住、定住政策に関し、幅広い外部要因なども分析していくことが重要となります。

EBPMを巡る熱い議論の行方

コロナ禍は、政策評価の世界にも大きな波紋を投げかけています。そのひとつがEBPM(Evidence-based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)です。『論より証拠』的な側面を持つEBPMを政府も推進しています。

しかし、政府が推進するEBPMと経済学者やデータサイエンティストが語るEBPMには、大きな違いがあるように思えます。経済学者やデータサイエンティストが主張するEBPMは、政策形成に使うエビデンスの質を高めるというのが基本スタンスです。

一方、政府が推進したいのは、国が策定する政策にしっかりとロジックモデルを作らせ、そのロジックモデルを検証させることが次世代型の政策評価というものです。政府が主導するEBPMはロジックモデルを作ることが主たる主張で、エビデンスの質をなるべく高めようというのが従たる主張というイメージです。

このようにEBPMにも狭義の意味のものと広義の意味でのものがあり、それにより解釈の相違があるためEBPMを巡る混乱した議論が見受けられるのかと思います。EBPMは研究的側面のみならず、社会的、政治的ムーブメントがあるように思えますが、その本丸は政策評価制度のバージョンアップのために推進している一連の運動という位置づけです。

評価学を通じて『あるものさがし』を学ぼう

大学生の皆さんは、就職活動をする中で自分の価値を適正に伝えることが求められます。自己を過大評価してはいけないし、決して過小評価してもいけないでしょう。自己を正しく評価して価値付けしなければなりません。

しかし、最近の学生たちは自分自身に自信がもてない人が増えています。それは自分の価値付けを行う方法論がわからないからかもしれません。キャリア関連の授業も担当している教員として、自身の研究対象である地域経済活性化で必要とされる『あるものさがし』を意識して授業を構成するようにしております。ともすれば、我々教員からみて固有の経験を積んでいる優秀な学生であっても、人と比べ『ないものさがし』をしがちです。しかし、そうではなく、自分の経験を正しく認識,評価し、今まさに取り組んでいる授業を中心にした普通の学生生活の中から自分なりの魅力を発掘する『あるものさがし』をしてもらいたいです。学生の皆さんも、コロナ禍だからこそ学べること、体験できること、得るものが必ずあるはずです。評価学や政策評価で価値付けの方法論を学べば、自分を『あるものさがし』で価値付けすることも可能です。そう考えると、評価学は就活に最も役立つ科目かもしれませんね(笑)

社会が大きくニューノーマルに変容していく不確実な状況下において、評価学や政策評価論を学べば、『あるものさがし』のヒントが得られるようになるかもしれません。関心があれば、ぜひ大学で身につけてください。

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