経営学部の学生が法学を学ぶことに対して、なんとなく「それって必要?」と、違和感を覚える人もいるかもしれません。法学を教える立場の私から言えることは、「経営学と法学は決して相反するものではなく、実は似ている部分も多いんですよ」ということ。そこで今回は「法学のススメ」というテーマで、法学という分野を学ぶことの魅力や、経営学と相通じる部分についてご紹介します。
経営学も法学も社会の動きに敏感
当たり前のことですが、経営学部の学生の皆さんは、経営学に興味があって大学で学んでいることと思います。実際に武庫川女子大学経営学部の先生方をみても、その多くが経営学の専門家で、法学を専門分野としているのは私だけです。
では、なぜ経営学部なのに法学を学ぶのでしょう?
それは、経営学と法学が実は近しいものだからです。例えばマーケティングをはじめとする経営学は、どういった人がどんなモノを求めているのか、という“需要”にとても敏感です。その需要は社会に生じた課題や動きに合わせて生まれるものですが、法学で扱う法律もまた社会の課題や動きに合わせて生まれたり、形を変えたりします。このように、経営学も法学も社会のリアルタイムな動きを意識する必要がある、という意味では近しい位置関係にあります。だからこそ、経営学部の学生が法学を学ぶことは決して不思議なことではないのです。
法律は日常生活の根底を支えている
法律と聞くと、弁護士や裁判官といった専門家だけが活用する高度で難しいものだと思われているようで、「近づきがたい学問」という印象を持っている人も多いかもしれませんね。しかし、実際にはまったく異なります。実は私たちの日常生活において、あらゆるシーンで法律が関係しているのです。
例えば、電車やバスに乗る時、コンビニで買い物をする時、スマートフォンを購入する時など、これらすべての行動に法律が関係しています。さらには大学で学ぶ時でさえも、授業料を支払って大学と契約を結び、施設を使用して授業を受けているわけですから、この場合も法律が関係しています。このように、法律は決して専門家のためだけにあるのではなく、日常生活を送る人々のために存在しているのです。法律が生活の根底を支えていると考えると、これほど身近な学問は他にないのでは?と私は考えます。まさに「犬も歩けば法律に当たる」といっても過言ではないほど、法律は私たちの日常生活と深く関わっているのです。
法律は世の中と密接につながっている
ここでは暮らしに根づいた法律についての具体例を2つご紹介します。
ひとつめは、2022年4月から成人年齢が20歳から18歳に変更されるケースです。これは民法で定められているのですが、実はこの法律の変化ひとつで世の中に数え切れないほど大きな変化が生まれます。18歳といえば多くは大学一年生。下宿住まいをする人は部屋の契約、あるいは大学生になって自分用のスマートフォンの契約をする人も多いでしょう。これまでは、20歳になるまでこうした契約には両親などの同意が必要でしたが、2022年4月からは18歳以上の人は成人として扱われるので、ひとりで契約できます。その分、責任も負うことになるので、これまで以上に自覚と責任が求められます。
ふたつめは、政治家の間でも議論されている夫婦別姓問題です。現状、夫婦の9割以上が夫の姓を名乗っていますが、もし夫婦別姓が実現すれば、結婚しても無理して姓を変える必要はなくなります。これにより、改姓が嫌で結婚を断念する、なんてことはなくなりますし、これまで改姓した方々が声を上げていた多くの不便が解消されることにもなるでしょう。
このように、法律の変化によって日常生活が大きく変わることは珍しくないのです。法学を学ぶことが社会の動きを学ぶことを意味するのは、このためです。
法学を学ぶことで自身の「武器」を増やせる
ここまでの内容から、法学を学ぶことは難しいことではなく、社会の動きを学ぶことに他ならないと理解していただけたと思います。こうした知識は、経営学を学ぶ上でもきっとプラスになるのではないでしょうか。
たとえ将来法律に関わるような仕事に就くことがなくても、法学を学んで法学的視点を養うことは、物事を今まで以上に広く知り、深く考えるのに必要な知識を増やすことにつながります。社会問題を多角的な視点で捉えられるようになれば、企業経営やマーケティングといった業務にも役立つでしょうし、それは就職活動や就職後の仕事における「武器」にもなるでしょう。
経営学も法学も魅力ある学問ですから、両者を学ぶことで相乗効果が生まれ、それぞれの学びをより素晴らしいものにすることができると思います。