武庫川女子大学経営学部で教えはじめて、早くも6年目となりました。1期生の3年次から「イノベーションプロセス論」という講義を担当しており、2025年は4期生講義を担当しています。今回は、4年間講義を担当して感じた学生の反応の変化などについて紹介します。

2025年9月にアメリカ分校に学生引率で出張し、引率教員としてスピーチ
イノベーションは理系だけのものではない
私は外資系化粧品会社などで、新製品開発や新規事業を立ち上げるといったイノベーションを起こす部門に所属していました。大学で講義を行うにあたり、これからの日本経済を成長させるために不可欠な「イノベーション」をテーマとする講義を担当したいと考え、「イノベーションプロセス論」が生まれました。
イノベーションと聞くと、理系分野の研究者が生み出す技術革新をイメージする人が多いのではないでしょうか。実際に学生の皆さんも「今ある商品をどう売るか」を考えて実行する「マーケティング」には興味を示します。しかし、企業が成長し続けるためには「ゼロからイチを生み出す」イノベーションも欠かせません。ピーター・ドラッカーも「企業の目的は顧客の創造である。したがって、企業はただ二つの起業家的機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。」と述べています。
技術革新を活用して新しい商品やサービス、ビジネスモデルを生み出し、社会に新たな価値を提供することがイノベーションであり、決して技術革新の主役である理系の人たちだけのものではありません。
もし将来、企業でマーケティングの仕事をしたいなら、マーケティングとイノベーションの両方を学んでおく必要があります
「想像力」と「創造力」がイノベーションの原動力
経営学部で実施する「イノベーションプロセス論」は、オンライン講義では学生の熱量が私に伝わりづらいので、対面授業で行っています。そのせいか少し受講人数が少ないのですが、その分学生一人ひとりの熱量は目を見張るものがあります。
毎年初回の講義では、「未来を想像することから、創造が生まれる」という話をします。
まずは、1985年と1989年に公開された映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の1作目と2作目を観るところから始まります。そして、映画に描かれていた30年後の未来と、実際の30年後を比較しながら、学生たちには「自分たちの20年後の未来」を想像してもらいます。
学生の皆さんに気づいてほしいのは、有名なSF作家ジュール・ヴェルヌの「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉にもあるように、イノベーションにはまだ存在していないものをイメージする「想像力」が欠かせないということ。なぜなら、その想像力をもとに課題を解決して新しい価値を形にする力が「創造力」であり、「想像力」と「創造力」の両方がイノベーションの原動力になるからです。
未来を想像する学生の視点に現れた社会変化
「イノベーションプロセス論」では20年後の未来を想像してもらうのですが、1年目から4年目までで、学生の提案に面白い変化がありました。
コロナ禍が明けつつあった1年目から3年目ぐらいまでは、20年後の未来の変化として挙げられた多くが「無人化」をテーマとするものでした。例えば自動運転や無人タクシー、無人店舗の増加などです。しかし4年目となる2025年は、販売などを担う「ロボット」が登場したのです。例えば、一家に1台ロボットが導入されたり、ロボットがプレーする試合を観戦するといったものでした。
こうした学生の発表内容の変化から、生成AIなどの影響もあって世の中の暮らしや人々の意識が変化しているのを実感しました。
世界ではAIの進化を背景に、ヒューマノイドを中心とするロボットが着実にイノベーションの主役になりつつあります。同時に、AIが人間の知能を超えるシンギュラリティを見据えて、どのように人間とロボットが共生するのかを想像し、真剣に議論する必要もあると思います。
リアルな経験や本物に触れて、心を揺さぶろう
2025年は大阪・関西万博では、多くのパビリオンが最新技術を活用した展示を行いました。しかし、大屋根リングなどを通じて万博が知らしめたのは、リアルに触れて体感し、体験する大切さ、そして「人間の力」だったと思います。
万博会場で世界中の人とコミュニケーションしながら、世界各国のパビリオンや会場全体の雰囲気を体感する中で、「人と人の触れあい」が未来を創っていくという期待が持てました。
今、私たちは時代の分岐点に生きており、未来は今の積み重ねによって決まります。若い世代の人たちは想像力を豊かに育み、ぜひ日本や世界で求められるイノベーションを創造する人材をめざしてください。そのために本をたくさん読み、SNSをはじめとするデジタル情報に頼り過ぎない生活を心掛けましょう。なぜなら、YouTubeで音楽映像を見るのと、コンサート会場でリアルな空間で体感するのとでは、心の揺さぶられ方がまったく違うからです。リアルにこだわり、本物に触れることで心揺さぶられるような体験をたくさんして想像力を育み、心を豊かにしましょう。


