• 2024/08/02

    宗平 順巳

AIとの付き合い方

数年前、「AIによって失われる職業」というテーマが世間を騒がせましたが、今は話題にならなくなりました。これはなぜでしょうか?それは、人がAIに求める役割が変化しつつあると同時に、AIそのものも大きく進化したからです。
今回は、AIの役割の変化や生成AIの登場による人に求められる能力の変化、さらには現代の学生の皆さんがAI全盛の社会で活躍するために、今学ぶべきことについて考えてみます。

コスト削減よりも生産性向上が目的のAI導入が増加

AIが人の仕事を助ける存在となりつつある例として、工場の現場はAIの導入でいわゆる「スマートファクトリー化」が進んでいることが挙げられます。コロナ禍で営業職や事務職の人々は在宅勤務となりましたが、工場勤務の人々は出勤が必要でした。しかしながら可能な限り少人数で工場を稼働させるため、日本企業の工場でもスマートファクトリー化が急速に進みました。
近年、日本に新たに建設される大手企業の工場は、ほぼすべてがスマートファクトリーです。例えば、日清食品の新たに建設された関西工場では、単なるコスト競争力向上だけではなく、統合されたシステムによる食の安全性向上や生産性向上、省人化を実現したスマートファクトリーとなっています。
実は、最初にAIが工場の現場で力を発揮したのは検査でした。検査員の目視検査をディープラーニングしたAIが画像やセンサーでサポート、代替することで生産性や正確性を向上させるとともに、検査員の過酷な職務負担を軽減し、ミスによる精神的プレッシャーから解放しました。

AIの民主化により、AIは現場に近い人々の「道具」に

最近は「生成AI」が注目を集めていますが、それ以前から「AIの民主化」というキーワードが注目され、実践されつつありました。ディープラーニングの登場により、大量のデータが準備できれば現場でオリジナルのAIをつくることができ、クラウドなどを活用することでエンジニアのサポートがなくても、少し勉強すれば誰でもAIを「道具として」使えるようになりました。このことをAI民主化と呼んでいます。
実際に日本の工場でも、現場担当者がクラウドなどを駆使して簡単なAIシステムを構築し、生産現場で使用するケースが増えています。これを可能にしたの要因の一つはAIの民主化が進んだことですが、画像や数値のデータを最も把握しているのは生産現場であることや、大手企業の生産現場には常に効率化や省力化を考える生産技術の担当者がいたことも大きかったでしょう。彼らはエンジニアなので高度なシステムに対する苦手意識も少なく、自分たちでAIを現場で活用できたのです。

生成AIが人の機能を拡張する時代に

近年、欧米ではAIの周辺で「Augmentation」という言葉が使われることが増えました。Augmentationは「強化」や「拡大」を意味します。コスト削減ではなく、人の機能を拡張、拡大するためにAIを活用しようという考え方で、従来の人と入れ替わる「代替」という考え方とは真逆の考え方です。
Augmentationで大切になるのが「AIの民主化」です。「AIの民主化」が進んで現場の人たちがAIを扱えるようになっていれば、自分自身の業務上の課題を主体的にAIを活用して解決するようになります。
この傾向は「生成AI」の登場によってますます拍車が掛かります。「GPT-4o」のような最新の生成AIは、質問するだけでスムーズかつ自然な音声会話で回答が得られるほか、あらゆる情報を学習しているので汎用性が高いのが特徴です。今後は「代替する」という概念がなくなって、あらゆることを「まずは生成AIに素案を作成させてみよう」となり、AI活用のハードルが一気に下がっていくでしょう。
将来、スマートフォンへの生成AIアプリの搭載が一般化すると、人の行動そのものが変化していきます。例えば、物事を想像する前にスマートフォンに質問するようになり、記憶力や検索の必要性がなくなったり、知らないことを誰かに尋ねたり相談する行動が激減するでしょう。しかし、どれほど優秀な生成AIでも人が黙っていては何も答えてくれません。事象を見て仮説を立てて適切な質問ができる能力、すなわちAIをアシスタントとして使いこなす能力が必須となります。

未来は「生成AIを利用して創造する」時代に

日本の大手企業の約7割が何らかの形で生成AIを業務に活用しています。日本企業はDXへの取り組みは遅れましたが、生成AIを活用することでDXの取り組みも加速しようとしています。しかも近年は、企業情報を安全に生成AIに参照させるソリューションが展開され、営業や企画、商品開発など社内の全部門で生成AIを活用できる仕組みが確立されるなど、大手企業のAI導入を促進する環境は整っています。しかし、多くの日本企業は、まだAIをコスト削減や効率化にしか活用できておらず、海外企業のようにクリエイティビティや新しいものを生み出すため使いこなせている企業は少ないです。
多くの日本企業がディープラーニング系AIと生成AIを使って、新しいものを創造することができた時、日本のDXは新たな段階に進んだと言えるでしょう。これから社会に出ようとする若い皆さんは、AIを使いこなし、AIを活用して新しいものを創造する能力が求められるようになるでしょう。

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