• 2020/08/25

    黄 婷婷

未来の社会を構築する原動力『デジタル想像力』について考える

デジタル技術は「現代の火」と言える

古代の人間が想像力を身につけたのは、「火」がきっかけになったという仮説があります。森に雷が落ちて焼けてしまったものの、生き残った人たちは焼け死んだ動物の肉を食べて美味しさを知ってしまい、なんとか火を自由に扱いたいと考えたのです。その時、人間は初めて想像力を用いて考えた、という仮説です。デジタル技術はまさに『現代の火』だと考えられます。想像力を働かせてデジタル技術の利便性や面白さを提供する方法を考える『デジタル想像力』の有無が、未来の社会での成長や生き残りを左右するかもしれません。

デジタル技術で自分の分身も創造できる近い未来

デジタル世界に『自分の分身=デジタルクローン』を作ることは、もはや夢ではありません。すでにデジタル技術を駆使すれば、声や姿、記憶もそのままの亡くなった人に会うことはできますが、そのクローンは考えることができません。しかし、将来的にAI技術が進化すれば考え方も身につけることができるようになり、肉体が死んでしまっても新たなインプットを続ける、まさに「デジタル世界で永遠の生命を手に入れる」ことも不可能ではなくなるかもしれません。

こども時代から今までのデジタルデータ、SNS内にあるデータや画像をすべてAIに提供してディープラーニング技術を用いて学習させれば、『同じ考え方を持つ分身=クローン』を作る技術はすでに確立されています。あくまでデジタル世界での話ですが、すでに取り組みはその先に進みつつあり、人の肌の触感や見た目が実際の人間に近いロボット技術も確立しつつあります。例えば、アメリカで誕生した『Bina48』は人間の皮膚を忠実に再現しつつ自然に近い表情が出せるロボットで、今はAIシステムが意思を持てるかどうかの検証実験を行っています。つまり見た目や触感に加えて「考える」ところまで人間に近づこうとしているのです。

この技術が進化すると、未来の人生をシミュレーションし、ある程度結果を予測できるようになります。ここでまくると、まさしく『デジタル分身』と言えるのではないでしょうか。ただ、私たちにとって「この分身を使って何ができるのか」を考えることが大切なだと思います。

大切なのは幼少期からデジタル技術に触れること

情報処理技術の進歩に伴い、企業や組織のデジタル化は競争優位から基本要件になりつつあります。しかし実際はそれだけではありません。デジタル技術によって、人間の学習能力や知覚能力が拡張されているという考え方を意味する「デジタルアフォーダンス」という言葉があります。要は、デジタル技術が人間の能力をアップさせられるという考え方です。実際には、デジタルトランスフォーメーションをはじめとするIT改革や新事業の立ち上げといった経営戦略の企画や立案、大きな経営的決断を行うのは人間です。まだ人間にしかできない部分も、たくさんあるのです。

日本でもデジタル技術に長けた人材育成をめざして、プログラミングが小学校の必修科目になり、さらに中学、高校、大学でも子どもたちがプログラミングに触れる機会は増えていくでしょう。

未来の日本の若年層は、AIが扱えるか、ディープラーニングの概念が理解できるかなど、いろいろなデジタル知識が要求されるようになり、子どもの頃からデジタル世界に触れておくことが今よりも重要になります。にもかかわらず、まだ「ゲームはダメ」や「パソコンより、外で遊ぶ方が大切」と言う人もいます。しかし、子どもの未来を考えるなら、ゲームを含めたデジタル世界を軽視して良いのかを真剣に考えるべきです。接触する年齢が遅いとデジタル世界での分別が身につくのも遅くなり、結果的に時代についていけなくなる可能性もあります。

デジタル空間とリアル空間が融合する社会

すでにデジタルクローンが存在する今、これからは「デジタルツイン」の時代に突入していきます。これは物理世界の出来事をそっくりそのままリアルタイムでデジタル上に再現するというもの。これからの世界は、人であれ、会社であれ、あらゆるものに現実世界とデジタル世界が存在するようになるでしょう。これが『Society5.0』の世界です。

この世界はサイバー空間とリアル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会です。デジタル世界でシミュレートされたものが現実社会に提供され、社会や生活が良くなっていき、あらゆる物事がデジタルと密接に関連していきます。ここで大切なのは、デジタル世界を創造する側に回るか、単に利用するだけの側に回るかということ。もちろん創造する側に回った方が楽しいのは言うまでもありません。

また、近年は『デジタル中立性』というキーワードも注目されています。デジタル技術に罪はなく、使う人によって善悪が決定されるという考え方です。デジタル技術を使えば、世界を破滅させることも、社会を良くすることも可能であり、どちらに使われるかは使う人に委ねられます。そうした倫理的な視点から見ても、デジタル技術を学ぶことは大切です。

デジタル想像力のレベルを上げ、新たな価値を創造せよ

こうしたデジタル世界が発達した未来の社会を生きぬく上では『デジタル想像力』が必須要素のひとつになるでしょう。デジタル技術に関する知識や経験を蓄積しながら、デジタル技術や世界に対して好奇心を持ち続けること、受動的にならず、常識に囚われることなく、そして好奇心を抱きつつ、さまざまな視点からデジタル技術や世界を見て考え、アクションすることが必要です。武庫川女子大学でも、経営学部でありながら写真にあるようなドローンやアイトラッカー、ファブラボといったアイテムや設備を備え、学生たちが『デジタル想像力』を獲得できる環境を用意しています。

未来の社会を生きぬく上で大切な力『デジタル想像力』には4つのレベルがあります。今のあなたがどのレベルにあるのか考えてみてください。

レベル1)これまで経験したデジタルツールを普通に道具として使える
レベル2)経験したデジタル技術に基づいて、応用的に使える
レベル3)経験していないデジタル技術を応用的に使おうとすることが想像できる
レベル4)デジタル創造ができる

『デジタル想像力』を身につければ、賢く、効率良く生きられる以外にも多くのメリットがあります。例えば、従来とは違う新しいサクセスストーリーを紡ぎ出すことができます。たとえエンジニアリングやプログラミングの技術を持ち合わせていなくても、デジタル世界とリアル世界を理解して両者を結びつける『デジタル想像力』を駆使できれば、今は存在しないまったく新しいサービスや概念を創造し、成功をつかみ取れるかもしれません。

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