• 2025/07/18

    黄 婷婷

文化背景が情報システムに与える影響

来春からアメリカ・ゴンザガ大学で「文化背景が情報システムに与える影響」というテーマの授業を担当することになりました。この授業では、日本や中国の洗練された情報システムの事例を学び、国情やビジネスを取り巻く環境などを踏まえて、アメリカに最適化された情報システムを学生自身が考え、議論を深めながら学びます。今回は、日本や中国、アメリカの情報システムの現状や背景について考えてみます。

世界各国の情報システムを学ぶことからスタート

「文化背景が情報システムに与える影響」の授業で検討する業界は、飲食業をはじめ、小売業やサービス業、SNS、金融など多岐にわたる業界が対象です。また、日本、中国、アメリカの情報システムはもちろんのこと、各国に最適化した情報システムを構築するために、人材市場の現状や文化、消費の特徴についても学びます。

この授業で研究対象となる情報システムの事例としては、日本では回転寿司の店舗オペレーションシステムや、鉄道の指定席券や乗車券などの座席管理・発行処理を行うシステムなどを、中国の情報システムではオンライン食料品配送プラットフォーム「ディンドン・マイカイ(叮咚買菜)」などを予定しています。

この授業で最も重視しているのは、「学生たちが仮想企業を経営するという想定のもと、グループで業界の現状を学びながら議論し、アメリカ文化に最適化した情報システムの仕組みを考案すること」です。

回転寿司の情報システムでケーススタディ

先日、武庫川女子大学に来学中のゴンザガ大学生を対象に、「回転寿司を題材として情報システム」の体験授業を実施しました。「回転寿司」はアメリカにも数多く存在しており、日本の寿司チェーンの中にはアメリカ国内に70以上の店舗を展開している企業もあるので、アメリカ社会にも少しずつ定着している印象があります。

学生たちはアメリカから日本に到着したその夜に大阪市内の回転寿司店を訪問し、日本の回転寿司システムを実際に体感してもらいました。授業では、回転寿司にインストールされている情報システムについて解説した後、学生たちは3つのグループに分かれて「日本の回転寿司の情報システムのどこをどのように変更すれば、アメリカに最適化した回転寿司の情報システムが完成するか」をグループディスカッションして議論を深めました。

各グループの発表では、「多文化のコンセプトのコースを提供する」「食べ終えたお皿を投入口にいれてできる抽選で、子ども向けの玩具だけではなく、料金割引券など大人向けの商品を加える」などの提案がありました。今回の体験授業では、短時間で回転寿司の仕組みやシステムについての調査や解説が十分でなく、提案はある程度予想の範囲内ではありましたが、学生たちは豊かな発想を駆使して意欲的に取り組んでくれました。来春からの授業では、今回以上に各国の情報システムをケーススタディを通じて理解したうえで、アメリカに最適化したシステムの検討に取り組みます。そうすることで、アメリカでの授業はさらに充実すると考えています。

言語を学べば文化や歴史が見えてくる

今後は情報システムの設計に新たな発想をもたらす要素として、文化の違いによる視点の多様性が重視されるようになると感じています。私自身も、ゴンザガ大学での授業を通じて、異文化理解と情報システム発展の接点をさらに研究したいと考えています。

こうした異文化理解を情報システムに落とし込む上で大切なことは、最新技術や優れたビジネスモデルを理解することよりも、文化の違いを深く理解しているかどうかが重要です。ある国で成功したチェーンシステムやビジネスモデルを他国に展開する際、文化の違いやその国の歴史的背景、人間性の違いを理解していないと、その国や地域に最適化した情報システムを構築するのは難しいでしょう。アメリカには特に多様な文化背景が存在し、それが複雑に絡み合っています。アメリカのみならず、ビジネスを成功させるには、最適化された情報システムを組み込んだビジネスモデルを展開しなければなりません。

国や地域ごとに最適化された情報システムによってビジネスを成功に導ける人材を目指すのであれば、さまざまな国の言語を学ぶのが一番の近道だと思います。言葉を知れば、自然とその言葉を使う国や地域に興味がわき、文化や歴史を積極的に知る動機が生まれます。そして何より、言葉にはその言葉を使う国や地域の文化や歴史が詰め込まれているのです。今は生成AIの発展により、言語を学ばなくてよいと考える人も増えていますが、それでは十分に文化や歴史を知ることにはなりません。言語も常に進化・変化しています。そして、言語は高校生はもちろん、大学に入学したばかりの人でも学ぶことができます。言語を学び、「自分にはないもの」を理解して受け入れることが、新しいものを生み出す力になるでしょう。

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