SDGsは2030年までに世界中の人たちが協力してより良い社会を作ることをめざし、国連で定められた17の目標です。その目標のひとつに「ジェンダー平等を実現しよう」があります。この目標を実現する上で日本社会が抱えている課題と、その課題解決に向けた国や大学の動き、そして女性のビジネス人材が社会で活躍するために必要な能力について考えていきましょう。
デジタルエンパワーメントでジェンダー平等へ
まず最初に、デジタルエンパワーメントは聞き慣れない言葉かもしれません。エンパワーメントは「能力開発」などと訳されることもありますが、ここではデジタルの力を活用してこれまで発揮できていなかった能力を発揮できるようになることをデジタルエンパワーメントと呼んでいます。
ところで、日本はジェンダー・ギャップ指数が120位と先進国の中でかなり下位です。初等教育や健康面での男女差はありませんが、経済や政治への参画面でも相当な差があります。そうした状態を脱する武器のひとつとして「女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する」というデジタルエンパワーメントに大きな期待が寄せられ、今では女性のデジタルエンパワーメントがジェンダー平等を実現する上で不可欠なものと考えられるようになっています。
ただ、世界的に見てもジェンダー平等への道のりは長く険しい道半ばと言えるでしょう。なぜならアメリカ・テキサス州での中絶禁止法や中国の一人っ子政策をはじめ、インドや韓国といった世界各国で妊娠や出産に対する女性の人権を無視した法律や風習が存在しているからです。しかしながらジェンダー・ギャップ指数を見ると、日本はそうした国々よりも女性が差別されている国であることがわかります。さらに驚くべきは、「自分よりも、夫や子どもを大切にすることが美しい」といった、女性自身の自己犠牲のもとで夫や家族を敬うような思考を一部の女性自身も肯定しているという点です。
ICT教育が女性差別解消のカギになる!?
こうした日本の現況を解消するため、国も積極的にジェンダー平等をめざした施策に取り組んでいますが、世界的に見れば遅れていることは否めません。しかし、コロナ禍によりタブレットの配布やオンライン授業といったICT教育の推進が加速されたのも事実です。
小学校や中学校ではICT環境整備やICTを活用した学習活動を充実させることや、プログラミング教育の必修化、高等学校においてはAI・データサイエンス教育の必修化やICT環境整備などを通じて、国の施策を実行に移しています。今、ICT教育を推進するのには理由があり、将来経営者や管理職が職務を遂行する上でICT技術は必須のものとなるからです。
特に、女子大におけるICT教育はより強化されるべきだと考えます。なぜなら学習指導要綱でも「情報社会を生きる力」として「情報活用の実践力」、「情報の科学的理解」、「情報社会に参画する態度(リテラシー)」といった情報活用能力を育成する必要があると説かれているからです。高等教育や大学教育の現場でICT教育を強化することは男女関係なくビジネス能力を高め、確実にジェンダー平等実現の後押しにつながります。
また、最近の若い人たちは「機能的非識字」になりつつあるといわれています。これは、マニュアルは読めるがその通りに作業できなかったり、自分が興味あるものや自分の観点に合う内容しか読まず、異なる観点を理解することができない状況を指します。情報収集しても、そこから自分の意見をアウトプットできない人も機能的非識字と言えるかもしれません。さらに、スマートフォンを上手に使いこなしていますが、パソコンを使用する頻度は少ないのが現実です。レポート作成にはパソコンが必要なはずですが、そもそもレポート提出が必要な授業が減っている現実があります。さらに、女子学生の中には情報技術やプログラミングの科目に苦手意識を持っている学生が多く、その重要性を理解しながらも受講を避けようとする傾向があります。
情報処理能力とICTツール活用能力の育成に力を入れるべき
女子大が女性にとって真の社会進出をサポートするための教育を推進するには、まず大学側が「大学の顧客サービス業化」(※1)を止める必要があるでしょう。コメントシートよりもレポートを重視し、講義以外の知識や情報収集の機会、さらには「情報収集→分析→発信」のプロセスをトレーニングする機会を増やすべきでしょう。こうした情報活用の実践力を身につける上で、武庫川女子大学経営学部が取り組む実践学習の場は非常に有効だと考えます。しかしながら、「情報収集→分析→発信」という情報活用プロセスを実践する機会がさらに必要です。
次に、DX推進や加速を実現できるデジタル人材の育成をこれまで以上に強化する必要があります。もちろん現場のエンジニアやデータサイエンティストも必要ですが、そうしたデジタル技術をビジネスと結びつけられる人材が求められています。「業務知識やビジネス×デジタル」といった横断的知識を備えた人材の育成に重点を置くべきでしょう。これからの時代は、デジタル技術の知識を備えた経営人材、ビジネス人材が必須となります。(※2)
ライフステージの変化に適応しながら自分のキャリアをデザインできる力を身につけた女性を育成するには、情報処理能力とICTツールを活用し、ビジネスと結びつけられる能力の育成を重視する必要があるでしょう。
※1:岩田弘三「まじめ化する大学生と学生の「生徒化」・大学の「学校化」」より
※2:経済産業省「デジタル人材に関する論点」より