• 2020/07/23

    金崎 健太郎

人口減少時代における日本社会の未来とは

人口減少する日本の将来を悲観する若者たち

日本の人口は現在1億2,500万人ですが、2050年には1億人を割り、2065年になると8,800万人まで減少すると推計されています。
そうした予測下の現代社会において、学生たちからは「年金は保険料を払っても将来あまりもらえないんですよね?」などの悲観論を聞くことが多く、人口減少や少子高齢化が進む 日本の将来に対して不安で暗いイメージを持っているようです。
しかし終戦直後の日本の人口は8,000万人に満たず、1億人を超えたのは高度成長期に入ってからのこと。人口がある一定割合で増減するのは、人間も生き物ですからある意味当然のことではないか、と考えることもできます。

 

時代にマッチしない社会の仕組みが不安の源泉

ではなぜ悲観的に感じるのかを分析すると、ある事実が浮かび上がります。それは現在の年金や医療保険などの社会保障、地方自治といった社会制度が、終戦後から昭和30年代の人口増加フェーズの時期に制定された仕組みで、それがほぼそのまま今も残っているという事実です。つまり悲観や不安の原因は、社会は人口減少フェーズに入っているのに、社会制度はまだ人口増加を前提とする仕組みを使っているからで、仕組みを新たに作りかえさえすれば人口減少や少子高齢化に対してそんなに悲観的になる必要はなく、逆にプラス面すら考えられると思うのです。

例えば、人口減少社会であっても寿命は確実に延びています。人生のスパンが長いという前提で人生設計をすれば、人生をより長く楽しむことができます。また、日本の社会は非常に豊かで成熟しており、その豊かさをベースに新しい技術を取り込んだ社会制度を構築すれば、暮らしは今よりもさらに快適になることは疑う余地がありません。

そう考えると、人口減少が進んだ日本社会の将来は、あながち悪い話ばかりとは言えないと考えられないでしょうか。一人ひとりの国民が豊かでより長い人生を快適に謳歌できる社会が未来に見えているのですから。

ただ、みんながそう考えられないことには納得できる点もあります。それは社会の仕組みの変革が追いついていない点です。社会保障などの制度は非常に複雑になっていて、それを変えるには多くの人の利害の調整でかなりの労力が必要となります。しかもその仕組みを積極的に理解しようとする国民は少ないのが現状です。年金がその好例ですが、複雑な年金制度の中で現在その恩恵を受けている人と将来に不安に感じている人が混在する社会では、積極的に仕組みを変えていく方向に社会の流れは動いていかないようです。

 

社会の仕組みを変革するには時間が必要

もちろん人口減少や少子高齢化に対応する取り組みは今も存在します。例えば、子育て環境の充実や教育の無償化などです。しかしこれらは今の母親世代の課題を解決するための取り組みです。今の学生世代が不安に感じているのは、自分が親になった時に社会が助けてくれるのかということ。今顕在化している課題の解決は、今課題を抱えている世代には喜ばれますが、将来課題を抱えるかもしれない若い世代の不安解消にはならない。逆に今課題を抱えている世代は将来についてあまり関心を持つ余裕がない。そこに社会の仕組みが変わりにくい原因があります。

社会の仕組みをドラスティックに変えるのは困難で、たいていは遅々として進みません。しかも、国民が未来に対してネガティブマインドのままでは、その歩みは遅いまま。だからこそ、未来の日本社会をポジティブに理解することが大切なのです。

今回、新型コロナウイルスの発生という予期せぬ問題に対し、社会全体がテクノロジーの活用や新しいルールを作って乗り切ろうとしています。もちろん不幸な問題ではありますが、社会の変革という視点から見れば、国民全体がウィルスの撲滅という目標を共有して、今までにない大胆な変革を短期間で実現することに挑戦している、ともいえます。

未来を想像するには今を知ることが必須

例えば子供が増えて教室が足りない、など右肩上がりの社会では課題が顕在化しやすく、やるべきことがすぐにわかります。しかし、人口減少社会では、何もしなくてもしばらくは課題が顕在化しないので、未来を見据えた変革の必要性が社会全体の共通認識になりにくい。今の日本社会はまさにその課題に直面していると言えるでしょう。

これからの社会の仕組みをどのように変えていくべきかを考えるには、まず今の仕組みを正しく知る必要があります。今を知ることが、未来を正しく予想するベースになるので、その勉強をきちんとする必要があります。社会保障や税など、今の学生が未来の社会で必ず付き合わなければいけない制度やその時に武器となりうるテクノロジー、日本が持つアドバンテージなど、未来に向けて『知っておくべき今』はたくさんあり、それを知ることが出発点です。

例えば、今の年金制度の仕組みを正しく知れば、人生100年時代の年金システムがどうあるべきか、おおよその見当がつきます。年金崩壊を恐れて海外に移住しなければ、などという心配が間違いであることなど、一目瞭然のはずです。

未来を作る学生たちには、今をしっかりと学び知ることで、20年後、30年後の日本社会の将来を正しく理解し、それにマッチした社会の仕組みのあり方を考えられる人になってほしいです。なぜなら学生たち自身が未来を予測して行動していかないと、彼らが高齢になる頃の日本社会は本当に今と変わらないものになりかねません。将来どんな社会になるのかを想像するのはかなり難しいのですが、正しく今の社会の仕組みと課題を理解していれば、想像力がより具体的に働くようになるでしょう。

正しい知識と考える力を学んでほしい

どんな職業に就いても社会との関わりなしに生きていくことはできません。また大学卒業後に会社員になる、起業する、公務員になる、どんな選択をしても、それは人生の最初のステージでしかありません。人生100年時代には職業選択のステージも3回、4回と増えるはずです。いくつものステージを渡っていく長い人生において、ずっと付き合うこととなる社会保障や税金などの社会の仕組みや課題を正しく知っておけば、自分の人生をより謳歌できる武器となるでしょう。

学生たちには、社会の担い手となる上で必要となる基礎的な知識、人生のステージを渡っていく上で必要なベースとなる力を学んでほしいです。それはすなわち今の社会についての正しい知識と自分で考える力。正しい知識に基づいて自分の考えを組み立てて伝えることができれば、どういう分野に進んでも自分自身のステージを作り出すことができますから。

また、これからは学ぶのは大学卒業で終わりではありません。いくつものステージを渡っていくためには常に学び続けることが必要となります。社会全体として見ても、一生学ぶ意欲を持った人が増えれば、高度な付加価値を生み出す小さな集団が経済を支える質の高い経済構造になっていくはずです。労働力に依存する部分はITに置き換わり、社会が求める人のタイプ、豊かさやインテリジェンスの基準も変わってくるでしょう。
人生100年時代が到来する近い将来、いくつかの職業を経ながら人生のステージが変わっても、大学での学びを生かして社会の一員として生き残れる女性となることを願っています。

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