• 2025/01/10

    金崎 健太郎

都市は誰のものか? ―これからの都市経営の視点―

私たちが暮らしている都市は水道や消防、小中学校などさまざまなサービスを提供しており、それ自体がひとつの社会的な組織です。組織である以上、都市も「経営」しなければなりません。そして日本の地方自治制度では、都道府県や市町村という地方公共団体がその経営を担当しています。

今回は、都市は誰のもので、その経営は誰がどんな目的を持って取り組んでいるのか、さらには都市経営と企業経営は何が異なるのか、などについて考えてみたいと思います。

都市経営と企業経営は似て非なるもの

一般企業では所有者である株主をはじめ従業員、顧客などがステークホルダーですが、都市の所有者は誰でしょうか?都市と利害関係を持つ人は、現在その都市に暮らす住民はもちろんのこと、そのほかにも都市で働く人、買い物やレジャーで一時的に利用する人、さらには将来この都市で暮らす人など、さまざまな立場の人が存在します。

企業の経営では利益をあげながら企業そのものを維持存続させていくことが大きな目標になりますが、都市の経営では暮らしている住民が快適、満足に生活できているか、さらには将来この都市に住む人が快適に生活できるか、そして都市そのものが未来永劫輝き続けられるかなど、多種多様な目標が存在します。

さらに都市の経営は、現在その都市が存続することだけではなく、将来そこに関わる人々にとってどのような都市にしていくのが望ましいのか、という判断を重ねていく必要があります。言い換えれば、現在の都市の姿は、過去に携わった人々の判断や取り組みの延長線上にあります。そう考えると都市経営と企業経営は、同じ「経営」ではありますが似て非なるものです。

都市経営の良し悪しは、長いスパンの中で、後世の人々によって評価されることになります。現在、そして将来その都市に関わってくる人々を含めた多くのステークホルダーに与える都市経営は、ある意味、企業経営よりも重い責任を背負っていると言えるかもしれません。

都市経営は「ひとりのカリスマ」だけでは不可能

では、都市の経営は誰のために行うのでしょうか。企業経営は株主や従業員、顧客など、企業と関わりを持つ人のためと言えるでしょう。これに対して都市経営は「その都市に住んでいる人のため」が正解と言えるでしょうか。答えは、それだけではありません。将来その都市に住む人をはじめ、その都市の機能を利用する人、その都市に集う人、通り過ぎるだけの人、さらには近隣の都市に住む人なども全て、都市と関わりを持つ人たちです。その全ての人たちのことを考えねばなりません。つまりはその都市で暮らす住民以外も含めた非常に多くの人のことを考えつつ、過去から受け取ったバトンを未来に受け渡すべく経営する、それが都市経営なのです。

また、都市経営と企業経営は同じ「経営」ではありますがノウハウがまったく異なります。確かに、企業経営者の主な仕事と言える企業マネジメントのような行政マネジメントの業務は存在しますが、それ以外に都市の「未来」をマネジメントしなければなりません。しかも都市のマネジメントは多岐に渡る要素が複雑に絡み合うため、決してひとりでできることではありません。

過去から未来へバトンを受け渡すのが使命

現代は、マーケティングやブランディングをしながら「都市の見え方」をマネジメントする時代です。しかしながら、ブランド力が高い都市とそうではない都市が存在するのも事実です。これは過去の積み重ねが現時点の都市の評価やイメージに大きな影響を及ぼしていると考えるのが妥当です。また、現在都市経営に成功している都市の取り組みを別の都市で真似ても成功するとは限りません。むしろ失敗する可能性が高いでしょう。

例えば、武庫川女子大学がある兵庫県西宮市は、常に「住みたい街」で上位にランクインする街です。大型商業施設の西宮ガーデンズがあり、鉄道網や高速道路網など、充実した交通インフラによる高い利便性だけがその理由ではありません。大学や高校が多くある文教地区であることや歴史のある酒蔵が建ち並んでいたり、子育て環境が充実している点など、多くの要素が複合的に充実していることで上位にランクインしています。

また、どこか別の都市が西宮市の都市経営を真似しても、うまくいくとは限りません。大切なことは、その地域の魅力を発見して高め、将来輝くように磨き続けること。「自分が住む都市には何の魅力もない」という声をよく聞くように、長く暮らしたり深く関わる人ほど、その都市に対する評価は低くなる傾向にあります。都市経営においては、自分が関わる都市の魅力や強み、長所を見つけることが第一歩であり、同時に最大の難関であると言えるでしょう。

都市経営に関心を持ち、都市を見る目を養おう

都市経営という視点で考えると、都市の構成員である住民はどのような意識を持っておくべきでしょうか。確かに、日々の生活の中で都市がこうあってほしい、将来こんな都市になってほしいなどと考える機会は少ないかもしれません。しかし、住民が都市経営や都市そのものに興味・関心を持つことは非常に大切です。なぜならその興味関心の高まりが多くの人に広がれば、その想いが都市経営に反映されるはずだからです。都市経営の中心は地方公共団体ですが、常に住民の考えや意向に大きな関心を持っていますから、住民一人ひとりが都市の未来を考え、自分の意見を持つことが重要だと考えます。

「自分にとって魅力的な都市」は、人によって異なるのはもちろん、人生のステージごとに変わるでしょう。それでもその時、その瞬間の自分にとって魅力的な都市像が必ずあるはずです。その都市とはどのようなものかを考え続ける感性を持ち続けて欲しいです。

若い人たちは、常に自分が都市に求めるものを明確にし、自分が住みたい都市を選べるようになってください。そして今住んでいる都市や生まれ故郷の都市が将来にわたって輝き続けるために自分ができること、都市の宝は何なのかを常に考え続けることで「都市を見る目」を養い、今の自分にとって最適な都市を見つけられるようになりましょう。

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