2015年頃から世界中でデジタルトランスフォーメーションという言葉が飛び交いはじめ、コロナ禍に陥った2020年以降、その声はさらに大きくなっています。ました。一般的に『DX』と表記されるデジタルトランスフォーメーションとは何なのか。学生がDXを学ぶ意味やDXに取り組む上で必要な『顧客視点』などについて考えてみようと思います。
DXとはビジネスを変革すること
デジタルトランスフォーメーションと聞くと、「IT機器を使った業務効率化」と思う人も多いかもしれませんが、それは少し違います。
市場調査会社IDCの定義では『企業が第3のプラットフォーム技術を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること』とあります。つまり最新のデジタル技術を使って、新しい価値を創造するというのが正しい意味です。単に手作業だったプロセスをデジタル化するのではなく、世の中が急速にデジタル化していく中で企業が生き残るためには、必然的にデジタル技術を駆使するしかないのです。日本はデジタル技術という『道具』に目がいきがちですが、大切なのは自分たちのビジネスモデルをデジタル技術でどう変えるかを考えることであり、それこそがDXなのです。単に伝票をデジタル化したり、社員にスマートフォンを持たせるのはDXではありません。
国も2020年12月に『DXレポート2』と呼ばれるレポートを出しました。ここではDXを『デジタルエンタープライズになるまでのプロセス』と定義し、従来製品やサービスを提供する企業がデジタルエンタープライズになるための『変革の道のり』だとしました。これまでかけ離れていた欧米と日本のDXに対する認識が非常に近づきつつあると言えます。
日本のDXはコロナ禍があと押しする形に
日本はDXへの取り組み未着手企業が9割以上ありますが、海外はすでに6〜7割の企業がDXを完了させていると言われています。これには理由があり、日本企業は今までビジネスがうまくいっていたためにDXに取り組む必要がなかったのです。逆に、海外企業が早くからDXに取り組んでいたのも、Uberやairbnbといったデジタル技術を使って従来の産業構造を破壊するサービスが誕生したから。つまり、アメリカをはじめとする海外企業も決して前向きかつ積極的にDXを完了したのではなく、新しい強力な競合出現という危機に対応するためにはDXに取り組まざるを得なかったのです。
そして今、日本ではコロナ禍がDXへの取り組みを後押ししつつあります。コロナ禍によって多くのモノやサービスのデジタル化が進んだ結果、消費者がデジタルサービスの便利さに気づき始めました。オンラインショッピングをする人が増え、リアル店舗とECの両方を上手に使って買い物を完結させる人も増えています。リアル店舗とオンラインのどちらでも買えることが消費者の『普通』となり、『当たり前品質』がグッと一段階上がったのです。
大企業でもDXでビジネスを変革できる
こうしたDXは、日本の大企業でも起こっています。
日本企業のDX先行事例とされているのが鉱山機械&建設機械メーカーの株式会社小松製作所(以下:コマツ)です。コマツは2013年頃にIoTが流行した時期から『KOMTRAX』というサービスを提供しはじめました。これはトラックや建設機械にセンサーやGPSなどを設置し、遠隔で情報収集や制御を行うサービスです。このサービスでは、夜中に動き出したら盗難と判断して遠隔操作でエンジンを止める『盗難防止』や、機械が壊れる前に点検や部品交換を促す『予防保全』、さらには『保険料低下によるコスト削減』などを顧客に対する提供価値としていました。大切なことは、効率化ではなく価値の提供を謳っている点です。顧客の立場に立ち、顧客の利益を考えてサービスの価値を提案しています。その結果、コマツも『本当の顧客が求める価値とは何か?』を考えはじめ、最終的には『予定通りに土木工事が進んで完了すること』こそが、顧客が求める真の価値だという答えに辿り着きました。
そこで2015年からコマツは、工事に必要な測量や図面制作、スケジュール管理や重機の発注、作業指示などをコマツがワンストップでサポートするシステム『スマートコンストラクション』を新たに展開しはじめました。
このサービスを提供することで、コマツは建設機械メーカーではなく、工事を予定通りに完成させるという価値を提供する会社になりました。建設機械という工事の一部を担う道具を扱う会社から、工事全体をサポートする会社という、まったく別次元の価値を提供する会社になったのです。
このように、日本の大企業でもデジタル技術によって提供する価値を変え、業界構造を変えることができるのです。
『顧客視点』のカギは『違和感』にある
学生の皆さんは、これから社会に出れば新しい価値を創造することを求められるでしょう。それに応えるには『顧客視点』で物事を考えられなければなりません。企業も作り手側の都合ではなく、お客様が何を求めているかという『マーケットイン』の視点から考えられる人を求めています。武庫川女子大学経営学部では、そうしたことが学べるサービスデザインやマーケティングなどの授業を1年生から受講できます。
加えて、今の若い人たちはデジタルネイティブなので、デジタル思考も自然に身についていますから、大人たちと同じ経験を積んで知識を備えれば、より現代にマッチしたサービスや商品を生み出すことができ、新ビジネスを立案する中心人物になれる可能性が高いでしょう。
また、『顧客視点』を仕事に生かせる人になるために、学生の間も日常生活の中で感じる『違和感』を意識しましょう。違和感を感じた時、感じて終わるのではなく「こうすれば良いのに」や「こうしたらもっと良くなるんじゃないか」というところまで考えてみることが大切です。さらに「こうすればもっと面白くなるのでは?」や「こんなサービスができるじゃない?」と、さらに一歩進めて考えられればなお良いです。デジタルネイティブな若い人は、そもそもがデジタル発想。『違和感』を意識して考えることを繰り返していれば、企業が求める人材に近づけると思います。