経営学部では、コロナ禍により大学内での対面授業を実施できない時期がありました。そんな危機的状況を乗り越え、学生たちに学びを提供できたのはITツールがあったからです。そして今、大学は生き残りを賭けたさらなる進化が必要です。今回は、コロナ禍当時のITツール活用状況や大学に最適化したLMS(ラーニング・マネジメント・システム)の必要性、未来の大学の価値などについて考えてみます。

コロナ禍で起きた大学の授業変革
コロナ禍となって学生が大学に登校できないことが決まり、いかに授業を実施して学生に学びを提供するか頭を悩ませました。当時、武庫川女子大学経営学部を含む多くの大学が遠隔授業の実施を決め、経営学部では、LMS(ラーニング・マネジメント・システム)のひとつであるGoogle ClassroomとZoomを組み合わせて授業を行うことにしました。
ただし、Google Classroomはアメリカの初等教育向けで20〜30人程度のクラスでの使用に最適化されているように感じます。大学で最大200〜300人が受講する講義に適用した結果、出席の確認はもちろん成績評価をつけるのもひと苦労で、その状況は今も続いています。
しかしながら、遠隔授業になって大きな戸惑いが生じたのは、武庫川女子大学経営学部では学部開設時に入学した1期生だけ。2期生以降の学生は、すでに予備校や高校、中学で登校できない状況を経験しており、大学入学後に大きな戸惑いはなかったように思います。
もうひとつ2期生以降が戸惑いを持たなかった理由として考えられるのが、教育の情報化を推進する「GIGAスクール構想」によって支給されたタブレット学習の経験があったことです。タブレット学習の経験があれば、すでにオンデマンド授業も経験しています。2期生以降に入学してくる学生の多くが「デジタルネイティブ」から一歩進化した「オンデマンドネイティブ」だと言えるでしょう。オンデマンドネイティブな学生は、学校の授業だけではなく、日常の勉強や受験勉強にオンライン学習サービスを活用してきた世代です。
コロナ禍後もオンデマンド授業を選択する学生
コロナ禍後、多くの大学が遠隔授業を廃止して対面授業への回帰をめざしています。しかし、オンデマンドネイティブな学生が増加していく現実を鑑みれば、対面回帰の動きは逆行していると言えるかもしれません。実際に武庫川女子大学経営学部では、オンデマンド授業と対面授業のいずれかを選択できる授業では、オンデマンド授業を選択する学生が圧倒的に多く、中には「対面授業がある講義は受講したくない」と考える学生もいるようです。
2025年を迎え、これから大学入学年齢を迎えるオンデマンドネイティブたちに通信制大学という選択肢が新たに生まれました。2025年からスクーリングもないオンライン完結型の大学を設立可能になった結果、株式会社ドワンゴが参画するZEN大学や専門学校を運営する大原学園が設立した東京経営大学といった新しい通信制大学が開学したのです。しかも、学費は一般的な大学より安価に設定されています。
これまで通信制大学は大学入学年齢を超えた社会人や高齢者が学ぶイメージでしたが、今後は高校卒業後のファーストチョイスとなる可能性を秘めています。そうなると、既存の大学と通信制大学は直接的な競合となり、大学の価値の再定義を迫られるでしょう。
既存の大学の価値は直接体験にある
ゼミで学生によく話すのが「社会人の教養は人、本、旅」という言葉です。これは立命館アジア太平洋大学元学長の出口治明氏が提唱しているもので、直接体験の重要性を説いたものです。本(読書)は間接体験ですが、直接体験を補う体験として必要なものだと考えています。直接体験をしていかないとAIの時代を生き抜くことは難しいように思います。
リアルな環境で学ぶことを重視する大学は、知識を提供するだけなら通信制大学に勝てない可能性があります。そうならないためにリアルな環境で学ぶ価値や意味を最適化し、付加価値のひとつとしてアピールしていくことが重要になるでしょう。
武庫川女子大学経営学部の実践学習は、まさにオンラインでは代替できないリアルな学びを得るための科目として立ち上げました。実践学習のようなオンラインでは得られない学びが得られる授業がない場合、その大学が提供できる価値はどんどん薄れていってしまうのかもしれません。
LMSが大学の価値を左右する可能性も
2025年以降の数年間は18歳人口があまり減少せず、その後急激に減少していきます。急激に減少する時期に備え、今のうちに既存の大学の価値を再定義する必要があります。その時、鍵になるのが大学のDX化であり、その核となるのがLMS(ラーニング・マネジメント・システム)です。
最適なLMSを選択することは、今後の大学経営や運営において重要な要素となり、LMSの機能が大学の価値を左右する可能性があります。最適なLMSの条件としては、①数百人レベルの大学生に対応可能、②オンデマンド授業に最適化、③学生の個別の状況を把握してフィードバック可能、④学生情報を分析や解析が可能なビッグデータとして収集できる、⑤AIの支援機能がある……などが考えられます。
現在は価値がある資格や能力も、将来的にはAIの成長によってその価値が失われていく可能性があります。大学生や高校生の皆さんは「人、本、旅」を通じた直接体験をしながら、AIを使いこなす人材をめざして「問いを立てる力」を磨きましょう。


