2020年から、労働組合をはじめとする労働関係機関(一般的には「労働界」と呼ばれています)で頑張る女性を「クミジョ」として研究を継続しています。研究から派生する活動として、2024年に「K2P2」というプロジェクトを立ち上げました。今回は、「K2P2」の具体的な取り組みや労働組合衰退の現状などについて考えてみます。
「K2P2」は労働組合の「見える化」をめざす
世界各国の男女平等の度合いを数値化した「ジェンダーギャップ指数」の2024年版報告書によると、日本は国別のランキングで対象146カ国中118位(GGI値0.663)と、相変わらず最劣悪国から抜け出していません。このギャップを解消する原動力となる労働組合では改善の努力が行われており、日本労働組合総連合会(連合)が、2030年までにあらゆる意思決定過程における女性参画率を50%に引き上げる「ジェンダー平等推進計画」をはじめとした取り組みや事例が生まれつつあります。
しかしながら同時に、クミジョの増員や活躍が阻まれたり、ハラスメント問題が続発するなどの悪弊も認められており、実際にクミジョの増員が実現した労働組合は少数です。労働界でこうした悪弊がはびこるのは大きな盲点であり、この盲点を見逃さず早急に対策を講じなければ、労働組合の衰退を加速させてしまう懸念が拭えません。しかも、労働界の外にいる一般の人々が労働界内部の様子を知ることは難しく、しかもこの状況を労働界自身の力だけで変えていくには困難が予想されます。
そうした懸念を払拭するために、労働界の外側から労働組合を「見える化」し、労働組合という組織全体の魅力や価値を向上させ、労働界の発展に貢献していくことを目的に「K2P2」を立ち上げました。
クミジョだけではなくクミダンも対象
「K2P2」の正式名称は「クミジョ・クミダン パートナーシップ プロジェクト®」で、私が労働界最大手のコンサルタント企業・j.union株式会社に提案する形で発足した産学協働プロジェクトです。「K2P2」は、労働界におけるジェンダー平等の実現と組合組織の変革をめざす新たなプロジェクトで、労働界のジェンダーバイアスを解消し、労働組合の役割や意義を最大限に発揮させることを目的としています。もちろん働く人たちのエンゲージメント向上のベースにある、ダイバーシティ問題の解決にも貢献する取り組みとなります。
具体的な活動内容は、労働界の現状を把握するためのアンケートやインタビュー、交流会を中心とする「調査研究」と、調査研究から得られた実態や情報を発信するための講演活動や政策提言といった「実践活動」に取り組む予定です。さらにまだ構想段階ではありますが、先進的な組合活動に取り組む労働組合が参加する、異業種間での組合人材交流、情報交換、先進事例紹介など「横のつながり」をサポートする「K2P2クラブ(仮称)」の創設、さらには組合単位ではなく、個人単位でさまざまな研修に参加できる「K2P2カレッジ(仮称)」の開講なども検討中です。さらにはジェンダー平等への理解や組織運営への理解度などを確認する検定制度など、ニーズがあればさまざまな取り組みに挑戦したいと考えています。
※「クミジョ・クミダン パートナーシップ プロジェクト®」は 武庫川女子大学教授 本田一成と j.union株式会社の登録商標です(商標登録第6787599号)。
労働組合は「人類の大発明」のひとつ
ジェンダーギャップ指数118位の日本だけに、労働組合内でも圧倒的に困りごとが多いのは、クミダンよりもクミジョです。実際に労働組合内でも女性に対するハラスメントやいじめなどが日常的に起こっていますが、女性組合員が労組内で声を上げるのは難しいのが現実です。しかし「K2P2」のような外部団体に対してなら相談できるかもしれません。こうした行き場を失いかけた相談者の相談を受け入れ、記録するだけでも価値があると考えます。それらを白書としてまとめて発信するなど、労働組合を第三者的視点から見つめ続ける役割も果たしていきます。
多様な取り組みを通じてめざすのは、労働組合本来の力を取り戻してもらうことです。その障壁となる課題の中で最も大きいのが「クミジョ・クミダン問題」という男女のすれ違いなので、まずはそこに取り組んでいきます。
私自身は、労働組合は「人類の大発明」のひとつと言えるくらい可能性を秘めた組織だと考え、期待しています。労働組合には多くの権利が与えられていますが、それらを十分には活用できていません。労働組合に対して外部から指摘、助言する「K2P2」の活動が、日本を変える一助となれば嬉しいです。
労働組合という「乗り物」をより良くしたい
まだ社会に出ていない高校生や武庫川女子大学の学生をはじめとする若い世代の女性は、大学で労働界について学ぶ機会は希有です。しかし就職すれば、大なり小なり必ず男女差の問題に突き当たるのが現実です。だからこそ、働く人々が労働組合という「乗り物」をきちんと整備しておく必要があると考え、「K2P2」を立ち上げました。今後は、これまで以上に大学の講義や「K2P2」の活動を通して、労働組合の存在意義や使い方を知ってもらえるよう取り組んでいきたいと考えます。