クラウド技術の登場を機に、SMACIT(social, mobile, analytics/AI, cloud, IoT)やブロックチェーン、メタバースなどのデジタル技術が世の中を大きく変えつつあります。こうしたデジタル技術が、産業の既存ビジネスモデルを破壊するというのが、グローバルにおけるデジタルトランスフォーメーション(海外ではDXではなくDTと呼びます)の共通認識です。
現在、デジタル技術は作る時代から使いこなす時代に移り変わりつつあります。今回はその具体例を紹介しながら、デジタル技術の正しい取り扱い方について考えてみましょう。
デジタル技術は「作る時代」から「使いこなす時代」へ
クラウドを活用したデジタル技術は、従来人間しかできないと考えられてきた仕事の多くを担いつつあります。
例えば、需要予測分析は、これまで人が重回帰分析などを行っていましたが、今ではソニーが提供するAIシステムを使えば、データを入力するだけで自動的に需要を予測してくれます。しかも、人による重回帰分析よりも、AIシステムで分析した方が精度が高い上、ディープラーニングによって回を追うごとに精度が高まっていきます。
これまで日本企業は、ITの取り扱いと同じようにデジタル技術を業務効率化に活用することしか考えておらず、デジタル技術で何ができるかを理解していませんでした。例えば、2年ほど前まで「AI」を勉強するとなったらプログラミング言語のpythonを勉強しようとするとか、ディープラーニングの原理やニューラルネットワークについて勉強しようとするなど、ハードルが高い知識や技術が必要だとされていたのです。
しかし現在では、専門家ではないビジネス部門の人が使えるAIが登場するなど、AIをはじめとするデジタル技術は、その進歩により「作る時代」から「使いこなす時代」に移行しているのです。事実、先進的なDXの取り組みを行う日本企業は、数人のプロフェッショナルによる新しいデジタルサービス創造ではなく、働く現場でデジタル技術を生かせる人材に全社員を育成し、デジタルを理解してから新たなデジタルサービスを創造することをめざしています。より多くの日本企業がこの方向でDXを推進すれば、日本企業のDXへの取り組みも一気に加速するでしょう。
日本企業もDXをビジネスに活かしつつある
デジタル技術を作る時代ではなく、使いこなす時代へ……今後は、これがデジタル技術への正しいアプローチの方法となっていきます。以前から「AI民主化」や「データの民主化」というキーワードがDX界隈でも頻出していましたが、まさに特別な専門家ではなくビジネスの現場にいる人が、AIやデータを使いこなす時代になることが「民主化」なのです。これはクラウドが進化し、AmazonのAWSやMicrosoftのAzure、GoogleのGCP、さらにはソニーなどがさまざまなクラウドベースのAIやIoTなどデジタルツールを無料や格安で一般開放したことによって実現したもの。企業の考え方の変化とデジタル技術の進歩が調和することで、正しいアプローチの方法が一般化してきたのです。日本企業もようやく「デジタルをビジネスに生かす」態勢が整いつつあると言えるでしょう。
DX戦略を公表して取り組む2つの企業例
本格的にDXに取り組む日本企業の中には、自社のDX戦略やロードマップを公表して取り組みを進める企業も増えています。
例えば、旭化成グループではDXを推進するため、デジタル導入期、デジタル展開期、デジタル創造期、デジタルノーマル期の4フェーズにわけてロードマップを公表し、現場の課題をもとに段階的にデジタル人材育成の施策を進めています。
デジタル導入期では、社内に400件のプロジェクトを立ち上げながら身近な課題をデジタル技術で解決する取り組みを進め、全社員が「デジタル技術でできること」を学ぶところからスタート。最終段階となるデジタルノーマル期には、全従業員がデジタル活用の意識を備えたデジタル人材になることをめざした取り組みを行っています。
また、三菱ケミカルでは製造現場の課題をDXで解決するために、DXを「難解なもの」や「専門家が扱うもの」と特別視せず、自然に取り入れてうまく活用しようとする「DXマインド」を全社員で築き上げていくことを重視しています。現場の声をもとに、シーズではなく顕在化したニーズをもとにDXを活用する推進することで、積極的にDXへの関心を持つ「DXマインド」を全社員に浸透させようと取り組んでいます。
デジタル技術を「パートナー」にできる人材に
このように「作る時代」から「使いこなす時代」へと時代が変化したことで、若い学生たちが社会に出るまでに大学で学んでおくべきことも変わっていきます。これからは様々なデジタルのサービスを使った導入事例や利用事例など、多くの事例を知り、そこから学ぶことが重要になってくるでしょう。
デジタル技術を使いこなす上で大切なことは「受け身にならない」ということ。例えば、以前はAIというと「AIによって仕事が奪われる」と恐れていました。しかし今は「奪われる」といった受け身ではなく、「一緒に取り組む」というパートナーとして共存する意識が大切です。ぜひそうした意識でデジタル技術を取り扱いましょう。
学生の皆さんは、デジタル技術に関する技術の理解は原理だけでOK、それよりも導入事例などを通じて使いこなし方を学んだり身につけている方が、社会に出て即戦力として活躍できる可能性が高まります。特に経営や企画、マーケティングの仕事をするなら、現場でデジタル技術を活かす方法を考えられる人材になることをめざしましょう。