• 2020/09/09

    神栄 美穂

<連載>コロナ禍のビューティートレンドエッセイ 第4回 ”Withマスク・ビューティー”時代の化粧品開発とは?

第3回まで、「“Withマスク・ビューティー”:メイクアップ編・スキンケア編」として、「マスクを着けていてもメイクをする女性」の求めるニーズについてまとめました。第4回では、メイクアップ・スキンケア各カテゴリーのニーズやキーワードを鑑みた、今後の化粧品開発の方向性について、考えてみたいと思います。

“Withマスク”が与える、今後の化粧品開発に対するチャレンジとは?

マスクを着けることが当たり前となった今、化粧品メーカーも消費者のニーズの変化に向き合わざるを得ません。メイクアップ製品では、市場規模が最も大きなベースメイクカテゴリー(化粧下地・ファンデーション・チーク・ハイライトなど)や、トレンドを引っ張るリップメイクカテゴリー(口紅・リップグロスなど)がWithマスク時代には大きな影響を受けていますので、これらの製品に関する今後の新製品開発は特に興味深いところです。

Withマスク時代に、ファンデーションやリップメイク製品に対する、メイクアップカテゴリーのニーズは、「化粧持ち(ラスティング)」と「マスクに色移りしない(ノン・トランスファー)」の2つでした。そして、スキンケア製品に対するニーズは「肌にやさしい」という点でした。しかし、これらを全てかなえる製品を開発していくのは、容易なことではありません。

たとえば、「化粧持ち(ラスティング)」の良い口紅は、食べたり飲んだりしても色が落ちにくくて良いのですが、夜にクレンジングする際にも、色が落ちにくかったりしたことはありませんか。リップメイク製品の場合、専用のクレンジング剤で落とす場合もあります。

このように、「化粧持ち(ラスティング)」という技術的ベネフィットを実現するには、顔料が肌から取れないように化粧品を肌に密着させる技術的工夫が必要になります。そうすると、夜に化粧を落とす際、クレンジングで落ちにくかったり、ゴシゴシ擦ったりすることで、肌に負担がかかったりするおそれもあります。「マスクに色移りしない(ノン・トランスファー)」も同様です。

つまり、Withマスク時代のメイクアップカテゴリーのニーズとスキンケアのニーズは、トレードオフとなる技術的デメリットや、デメリットになるイメージがあると思います(下表)。

Withマスク時代のニーズ 技術的デメリット・デメリットイメージ
化粧持ち(ラスティング) 化粧持ち(ラスティング)が良い製品は「化粧落とし(クレンジング)しにくい」・「肌に悪い(悪そう)」
マスクに色移りしない(ノン・トランスファー) マスクに色移りしない(ノン・トランスファー)製品は「化粧落とし(クレンジング)しにくい」・「肌に悪い(悪そう)」
肌にやさしい 肌にやさしい製品は、「効果・効能がそれほど高くない(高くなさそう)」

そこで、これまでまとめてきたニーズやキーワードから考えると、これまでは「1つの技術的ベネフィットがある製品」でよかったものが、これからは多重化して、「トレードオフの関係にある、2つの技術的ベネフィットがある製品」が開発できれば、より大きな差別化要因になるのではないでしょうか。

具体的に言うと、下記のような「デュアルベネフィット・クレーム(2つのベネフィットを訴求している製品)」はどうでしょう?

✓ 化粧持ち(ラスティング)が良いが、クレンジングもしやすいファンデーション・口紅・チーク
✓ 化粧持ち(ラスティング)が良く、肌にもやさしいファンデーション・口紅・チーク
✓ 化粧持ち(ラスティング)が良いメイクアップ製品を、肌にやさしく、しっかりと落とせるクレンジング製品
✓マスクに色移りしないが、クレンジングがしやすいファンデーション・口紅・チーク
✓ マスクに色移りせず、肌にもやさしいファンデーション・口紅・チーク
✓ マスクに色移りしないメイクアップ製品を、肌にやさしく、しっかりと落とせるクレンジング製品

全く新しいメイクアップの出現もあり得るかも?!

または、今までにはなかった、全く新しい剤型のメイクアップ製品の出現も考えられます。「化粧持ち(ラスティング)や「マスクに色移りしない(ノン・トランスファー)」といった技術的な実現が、パウダー系・クリーム系・リキッド系などの剤型で難しいのであれば、「貼るメイクアップ製品」の方向での技術開発も有望でしょう。「貼るメイクアップ製品なんて、何のこと⁈」と思われる方も多いかと思いますが、実際、いくつかの企業でその開発は進んでいます。

たとえばパナソニック は、2016年10月に「CEATEC ( Combined Exhibition of Advanced Technologies)」というアジア最大級の規模を誇るIT技術とエレクトロニクスの国際展示会に、『印刷して貼るメイク~”塗る“から“貼る”メイクアップシート』を出展しました。これは、同社の『非接触肌センサと特殊印刷技術を応用し、一人ひとりにぴったりのシミを隠せるナノレベルの極薄シート』で『貼るメイク』を提案したものです。

私もこの展示会に足を運び、展示品の「メイクアップシート」を体験させてもらいましたが、ものすごく薄いシートで、違和感なく肌に密着することに驚きました。シートを貼った皮膚が動いても、メイクアップシートは肌の上で寄れることもなく、結構自然な仕上がりを保てていました。しかも、メイク落としをする(メイクアップシートをはがす)には、水で濡らせば良いだけなので、肌への負担もありません。

もう一つ、花王が開発している「ファインファイバーテクノロジー」 は、今はスキンケアとボディケアで応用されていますが、近い将来、カバーメイクでの市場展開も実現するでしょう。

マスク焼けを防ぐ製品開発の方向性は?

次に、「マスク焼け」を防ぐニーズについては、2つの製品からの提案が可能です。

1つ目は、2015年頃から市場で展開されている、画期的なUVブロック処方の開発です。

資生堂は、2015年に「汗や水に反応して紫外線防御膜を強化する「ウェットフォーステクノジー」を採用した日やけ止めを発売」 して以来、2020年には「『ウェットフォーステクノロジー』に熱でUVブロック膜が強くなる技術『ヒートフォーステクノロジー』を組み合わせた新技術『シンクロシールド』を搭載した製品を発売しました。これにより、市場には、「熱、汗・水を味方につけ、強力な紫外線から肌をしっかり守る日やけ止めに進化した」 製品、「ザ パーフェクト プロテクター」や「アネッサ」が発売されています。

また、2020年にはカネボウ化粧品からも「摩擦に強く、落ちにくいスーパープロテクションプルーフ」 を謳った製品、「Allie」が発売されています。

UV製品のシェアが高い花王も、その他、コーセーも同様の研究を続けていることが発表されています 。今後もこのような技術革新は続くと思われますので、どの技術が消費者に最も効果を感じてもらえるものなのか、を見守りたいと思います。

2つ目は、「美白効果のある、目元用シートマスク(アイパッチ)」です。

シートマスク市場では、全顔タイプのシートマスクが主流で、部分タイプの目元用シートマスクなどは、従来あまり人気がありませんでした。日本は欧米や中国に比べてアイクリームの市場も小さく、目元に特化したスキンケアよりは、全顔のケアを好まれます。

しかし、マスクを着けることが常態化した中、マスクから露出した部分とマスクとの境目である「目元・目の下」に特化したケアは合理的で、かつ有効といえます。

元々、目元は顔の中でも皮膚が薄いデリケートな部分で、紫外線だけでなく、スキンケアやクレンジング時の摩擦によるダメージの蓄積でもシミが発生しやすい箇所です。「マスク焼け」をする部位は、目元・目の下がマスクから露出して紫外線にさらされているだけでなく、マスクと皮膚が擦れる摩擦も伴いますので、通常の目元のスキンケアよりも丁寧なケアが必要となります。

そこで、「美白効果のある、目元用シートマスク(アイパッチ)」が最も簡単にケアできる製品といえるでしょう。美白効果のある有効成分を肌にしっかりと届け、紫外線や摩擦でダメージを受けた肌を鎮静し、保湿効果で肌のバリア機能を高めるなど、複数のケアが目元用シートマスクを10分程度、着けておくだけで可能となるのですから。

環境配慮への提言

最後に、どんな化粧品でも「(肌にやさしいだけでなく)環境にもやさしいこと」を忘れてはいけない、という点を付け加えておきたいと思います。

UVブロック製品やメイクアップ製品は、クレンジング時に水で流すため、最終的に海にやさしい原料を用いた処方でないといけないと思います。もちろん、製品のパッケージについても同様です。この点については、新型コロナウィルス感染症の有無に関係なく、今後の化粧品の開発には忘れてはいけない点でしょう。

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経営学部では、このように消費者のニーズの変化を探ったり、そのような変化による企業の動向などを仮説を立てながら考える演習を行っています。興味を持たれた方は、学生を交えた産学連携も行っていますので、ぜひお声をおかけください。また、受験生の方は、ぜひオープンキャンパスや入試相談会にお越しください。

【筆者プロフィール】
外資系企業に23年間勤め、うち12年間をフランス系化粧品企業のアジアイノベーションセンターやリサーチ&イノベーションセンター イノベーション本部にて、日本・韓国・中国の消費者のニーズやビューティートレンドを調査・分析し、化粧品(スキンケア・メイクアップ・ヘアケア・ヘアカラー)のグローバル製品開発に携わる経験を豊富に持つ。経営学修士(MBA)。

【本文の参考ホームページ】

パナソニックホームページ https://channel.panasonic.com/jp/contents/19045/
https://www.panasonic.com/jp/corporate/brand/story/makeup.html
花王ホームページ https://www.kao.com/jp/kaonokao/kaonokao/003_finefiber/ff/
https://www.kao.com/jp/corporate/news/rd/2018/20181127-001/
資生堂ニュースリリース https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002858
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002858
カネボウAllieホームページ https://www.kanebo-cosmetics.jp/allie/technology/
花王ニュースリリース https://www.kao.com/jp/corporate/news/rd/2017/20171026-001/
コーセーニュースリリース https://www.kose.co.jp/company/ja/content/uploads/2018/11/2018112001.pdf

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